遺産分割で損をしないために、注意したいポイント3つ

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相続が発生すると、被相続人(亡くなった人のこと)の遺産は、一度相続人全員の共有となることをご存知でしょうか。

そして、共有の状態にある遺産は「遺産分割」の手続きを経て、最終的に各相続人の所有や権利に属することになるのです。

つまり、相続人としての権利を確保し、かつ最大化するためには、この遺産分割の過程で遺産に対する自身の権利をどれだけ確定できるかがポイントとなるのです

遺産分割のプロセスは、まさに相続という一連のイベントにおける核でもあるのです。

本コンテンツでは、この重要な遺産分割について基本的な知識を得て頂くとともに、特に注意して頂きたいポイントについてご紹介します。

目次

遺産分割とは

相続は、被相続人が亡くなると同時に発生します。

相続人は、相続開始の時に被相続人の財産に属した一切の権利義務から被相続人の一身に専属したものを除いたものを相続します。

相続財産は一般的に「遺産」とも言います。

相続人が複数いる場合、「共同相続」が発生し相続財産は一時的に相続人全員の共有となります。

その後の遺産分割協議などを経て、各共同相続人はその相続分に応じて被相続人の権利義務を承継します。

このように被相続人が亡くなると、被相続人に帰属していた財産的権利義務は相続という形で親族など一定の範囲の縁者により法律上当然に引き継がれるのです。

そして、被相続人が遺言で指定したり、相続人間の協議で決めた各相続人の相続分の割合で各相続人が遺産を分けあうことを、一般的に遺産分割と定義します。

共同相続人の相続財産の共同所有は「遺産分割までの過渡的な形態」であって、相続財産を共同相続人の持分に応じて各相続人に適正に分配するという目的があると言っても過言ではないでしょう。

遺産分割の効力は、民法第909条「遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない」にあるとおりです。

これに従い、相続人は遺産分割の内容に沿って相続開始の時にさかのぼり相続財産を取得することになります。

それでは、遺産分割と対象となる財産すなわち遺産はどのようなものが考えられるのでしょうか。

預貯金や不動産など様々なものが考えられますが、遺産のそもそもの定義を深掘りしてみましょう。

民法第896条では、相続人が被相続人から相続する遺産について「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」と定義しています。

これをを解釈すると、遺産とは被相続人が死亡した時に存在していた財産だけとなります。

したがって、相続開始後に遺産から新たに生じた財産、例えば銀行預金の利息や賃貸物件の家賃収入などのように、遺産分割時の遺産から派生した収益であると考えられるものは遺産には該当せず、同様に遺産分割の対象にも含まれないと解釈できます。

また、相続開始時には存在しなかった財産でも、例えば相続財産である不動産の売却資金などのように遺産分割時の遺産が姿を変えたものと考えられる資産は、遺産分割の対象です。

その一方で、相続開始時に存在したものであっても、朽廃・消費・譲渡等のために滅失・減少して存在しなくなった財産は、遺産分割の対象とはなりません。

遺産分割の割合、分割方法

遺産分割の割合

遺産分割の割合とは、共同相続人の相続すべき割合(遺産の総額に対する分数的割合、相続分率)という意味です。

遺産分割前の総遺産に遺産分割の割合を乗じて計算された財産額を、相続分額あるいは相続分と言います。

それでは、遺産分割の割合はどのように決めればよいのでしょうか。

これについて民法第906条では、「遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする」とされています。

つまり、遺産の分割割合は民法上「当事者間で決めなさい」ということなのです。

しかしながら、法定相続割合や遺留分割合など一定度の基準は設けられており、実際の相続割合はこの基準によって決まることが多々あります。

それでは、遺産分割割合の基礎といっても過言ではない法定相続割合について見てみましょう。

なお、遺留分割合については後述します。

(1)配偶者

  • 続人が配偶者のみの場合:全部
  • 子どもと相続する場合:2分の1
  • 被相続人の直系尊属と相続する場合:3分の2
  • 被相続人の兄弟姉妹と相続する場合:4分の3

(2)子ども(嫡出子を仮定)

  • 相続人が子どものみの場合:子どもの数で均分
  • 被相続人の配偶者と相続する場合:(2×子どもの数)分の1

(3)直系尊属

  • 相続人が直系尊属のみの場合:直系尊属の数で均分
  • 被相続人の配偶者と相続する場合:(3×直系尊属の数)分の1

(4)兄弟姉妹(全血を仮定)

  • 兄弟姉妹だけが相続:兄弟姉妹の数で均分
  • 被相続人の配偶者と相続する場合:(4×兄弟姉妹の数)分の1

分割方法

遺産分割の方法は、先述した相続人間における遺産分割協議の他に、遺産分割調停と遺産分割審判があります。

遺産分割協議が不調の場合、不服とする相続人は家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てます。

この遺産分割調停では、家庭裁判所が選出した調停員を介して、利害関係にある相続人と話し合い、遺産分割協議の成立を目指します。

遺産分割調停でも合意に至らなかった場合、遺産分割審判に移行します。

なお、日本では「調停前置主義」が採用されていますが、遺産分割に関する事案については調停を経ずに、最初から審判を受けることが可能です。

審判で下された決定事項が、最終的な結論と捉えて良いでしょう。

遺産分割での注意点3つ

分割する遺産に漏れが無いようにする

遺産分割を行う際は、被相続人の遺産に漏れがないか入念に確認しましょう

もし遺産分割協議後に新たな遺産が見つかった場合は、遺産分割協議のやり直しやその財産について新たに遺産分割協議を行うことになります。

遺産分割のやり直しによる再分割は、相続税の修正申告など想定外の負担が生じる可能性もあります。

遺留分侵害に注意

先述した遺留分とは一定の相続人のために必ず確保しておくべき相続割合であり、相続人として最低限保証されている相続分といえます。

この遺留分は、被相続人が遺言により「ゼロ」と指定しても、その効力はありません

遺留分権利者とその割合については、以下のとおり民法第1028条に定められています。

兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。

一 直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の一

二 前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一

つまり、兄弟姉妹には遺留分は無いことから遺留分権者は被相続人の配偶者、直系卑属(子・代襲相続人・再代襲相続人)、直系尊属(両親および祖父母)となります。

また、遺留分の割合については直系尊属のみが相続人の場合は被相続人の財産の3分の1、その他の場合には被相続人の財産の2分の1となります。

この遺留分を侵害すると、侵害された遺留分権者は遺留分を侵害した人に対して侵害された遺留分相当の返還や、見合いの金銭の支払いを請求する「遺留分減殺請求(改正民法施行後は遺留分侵害額請求)」を行う権利を有します。

これに応じないと、遺留分権利者は家庭裁判所で遺留分減殺調停、さらには遺留分減殺請求訴訟を提起することになります。

結果、和解または判決によって、遺留分侵害相当額の支払いが確定しても支払いに応じない場合は、強制力のある民事執行の手続きを取ることが可能です。

このような無用な争いの当事者にならないように、各相続人の遺留分は侵害しないように配慮してください。

遺産分割協議書を作成する

相続人間で遺産分割の内容が整うと、遺産分割協議書を作成することが一般的です。

遺産分割協議書とは、遺産分割協議により相続人全員が各人の相続割合に合意し、当該協議が正式に整ったことの証として作成されるものです。

なお、家庭裁判所における調停分割の場合は調停書、審判分割の審判書が裁判所により作成され、いずれも強い法的拘束力を持ちます。

遺産分割協議書の作成は任意です。

しかし、遺産分割協議書は後日に相続人間で紛争が起きた場合に証拠として機能することが期待できますので、作成しておくことを推奨します。

土地・不動産の分割方法

遺産が金銭であれば分割しやすいのですが、遺産全体において大きな割合を占めると考えられる不動産はそうではありません。

以下では、不動産の分割について代表的な方法をご紹介します。

現物分割

現物分割とは、被相続人名義の不動産の所有権を、土地は分筆するなど各相続人間で物理的に分割して、分割後の不動産を各相続人の100パーセント単独所有権とする方法です。

ただし、仮に均等の面積で分割するとしても、分割後のそれぞれの不動産に道路への接面状況や高低差、日照状況などに違いが出ると、財産価値の観点から不平等な遺産分割になります。

この場合は、一般的に面積割合で調整していきます。

しかし、そもそも不動産は価額的に均等に分けることが難しいことから、調整の過程で相続人それぞれに主張の食い違いが生じ、トラブルに発展してしまう可能性があります。

また、周辺の環境から一団の土地を分割することで1坪当たりの価額が低くなる(面少減価)場合、あるいは分割したあとの土地の面積が、建物を建築することすら不可能なほど極端に狭くなってしまう場合は、現物分割そのものを再検討する必要があります。

代償分割

上記のような現物分割が難しい不動産である場合、当該不動産を特定の人が相続し、当該不動産を相続する人が、相続しない人に対してその不平等分を金銭で補填する方法です。

代償分割の対象となる不動産の経済的価値をどのように評価するか、当該不動産を相続する人が代償分の金銭を確保できているかがポイントになります。

換価分割

分割前の相続人全員で共有状態となっている不動産を相続人の共有名義で売却し、各相続人がそれぞれの相続割合に応じて売却代金を取得することです。

各相続人の相続割合通りに分割することが難しい不動産でも、売却・換価後の金銭を平等に分けることは容易です。

また、不動産に比べて金銭は数値的に客観性がありますから、相続人間でのトラブルを防ぐうえでも効果的な方法です。

共有分割

相続人全員で、一つの不動産を各相続割合に応じた持ち分で共有する方法です。

一見すると公平な方法に思えますが、不動産を共有で相続することは、後日さまざまな問題やトラブルのきっかけとなる可能性を孕んでいるため、もっともお勧めできない方法です。

まず、共有不動産は建物の建て替え・担保提供・共有前の状態での売却・相続税の物納など何をするうえでも共有者全員の合意が必要となり、共有者単独では何一つできなくなります。

特にアパートなど賃貸不動産の共有は、トラブルが生じやすいです。

たとえば、修繕や建て替えはどのように行うか、あるいは実際に管理している共有者の負荷を考慮した費用負担割合はどうするか、その後の賃料収入の取り分割合はどうするかなどでさらに揉めてしまい、親族にもかかわらず修復不可能なほどに険悪な関係に陥った例は数多くあります。

また、共有者の死亡により代替わりが生じると、当該不動産は従兄弟や再従兄弟姉妹同士の共有となっていくでしょう。

こうなると権利関係が一層複雑になることに加え、さらに代替わりが進むといずれは面識がない人同士の共有となることも想定されます。

このような背景から、共有不動産はその持分の売却すら難しい傾向があります。

また、共有者同士による共有持分の売買も現実はうまくいかないことが多いようです。

そのため、先代以前からの共有不動産について、その共有状態の解消に悩んでいる人は多いのです。

まとめ

以上、遺産分割の基礎知識と注意して頂きたいポイントについてご紹介しました。

遺産分割は相続手続きにおける最大の重要イベントであり、これにおいて自身の権利を最大化するためには民法などに関する相応の専門知識と経験が必要と考えられます。

そこで、税理士や弁護士などの知見を活かすことをお勧めします。

特に弁護士であれば、他の相続人とトラブルになったとしても、あなたの代理人としてあなたの利益を最大化するように動いてもらえることも期待できます。

遺産分割には、決してご自身だけで臨まないことをお勧めします。

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