みなさんは、遺産相続についてご存知ですか?
遺産相続とは、個人が亡くなった場合に、亡くなった本人の財産や権利義務などを配偶者や子どもに承継させる制度のことを言います。
亡くなった人を「被相続人」、承継する人たちを「相続人」と呼びますが、相続人には、実は母親のお腹の中にいる胎児も該当するのです。
では、まだ生まれていない胎児にはどのように相続権が与えられるのでしょうか?
今回は、胎児の遺産相続について、相続権が認められるケースや条件についてご紹介します。
法定相続人となれる条件
民法で定められた相続人のことを法定相続人と言います。
配偶者は必ず相続人として認定されますが、婚姻関係がないと対象外とされるため注意してください。
では配偶者に加えて相続人になることができるのはどのような人なのでしょうか?
法定相続分の分配も含めて、国税庁のホームページに詳しく書かれているので、見てみましょう。
◆第1順位 死亡した人の子供
その子供が既に死亡しているときは、その子供の直系卑属(子供や孫など)が相続人となります。
子供も孫もいるときは、死亡した人により近い世代である子供の方を優先します。
◆第2順位 死亡した人の直系尊属(父母や祖父母など)
父母も祖父母もいるときは、死亡した人により近い世代である父母の方を優先します。
第2順位の人は、第1順位の人がいないとき相続人になります。
◆第3順位 死亡した人の兄弟姉妹
その兄弟姉妹が既に死亡しているときは、その人の子供が相続人となります。
第3順位の人は、第1順位の人も第2順位の人もいないとき相続人になります。
なお、相続を放棄した人は初めから相続人でなかったものとされます。
また、内縁関係の人は、相続人に含まれません。
【法定相続分について】
イ 配偶者と子供が相続人である場合
配偶者1/2、子供(2人以上のときは全員で)1/2
ロ 配偶者と直系尊属が相続人である場合
配偶者2/3、直系尊属(2人以上のときは全員で)1/3
ハ 配偶者と兄弟姉妹が相続人である場合
配偶者3/4、兄弟姉妹(2人以上のときは全員で)1/4
胎児も相続人になることができる
現在の法律では、胎児も相続人になることができます。
民法第886条では、「1.胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。2.前項の規定は、胎児が死体で生まれたときは、適用しない。」とされています。
胎児が相続人になるケースの一例を見てみましょう。
1.妊娠中に夫が死亡した場合
死亡した夫の遺産を、妻と子ども(胎児)が半分ずつ相続する権利が与えられます。
実際は胎児を出産後、特別代理人を選任し、遺産分割の手続きを行います。
ただし、胎児が死亡した状態で産まれた場合には相続権はありません。
相続権を有することができるのは、無事に生まれることが前提です。
2.離婚した場合
離婚後子どもを妊娠し、元夫が死亡した場合、婚姻の有無に関係なく、元夫の子どもであることが証明できれば胎児には相続権があるため、元夫の財産を相続することができます。
また自身が再婚していたとしても、子どもは元夫の財産を相続することができます。
たとえ、今の夫と養子縁組をしていても相続できる権利が変わることはありません。
この場合、子どもには、元夫と今の夫両方の財産を相続できる権利があることになるのです。
3.離婚した元夫が遺言書を作成していた場合
元夫が相続対策として、現在の家族に遺産を相続させると遺言を作成していた場合でも、子ども(胎児)は遺産を相続することができます。
遺言は亡くなった方の意思であり尊重しなければなりませんが、相続には法定相続人に対して最低限の権利を守る「遺留分」があります。
遺言書がある場合は、遺留分の侵害がないかどうか確認したうえで、法定相続分の2分の1までを遺留分として相続できます。
また、希望通りの額をもらえない場合には、遺留分減殺請求を行うことも可能です。
請求の仕方や注意点、期限もあるのでよく調べてから請求しましょう。
胎児の相続は民法における例外規定
人が法的な権利や義務を得られるのは、生まれてから死ぬまでとされています。
そのため多くの法律では胎児に権利はなく、生まれないと権利そのものが発生しません。
しかし相続では胎児にも権利が付与されます。これは民法の中でも非常に例外的な扱いだと言えるでしょう。
胎児を含めた相続、よくある疑問
このように、民法の中でも例外的となる胎児の相続については、さまざまなシーンで迷う場合が多いようです。
実際によくある疑問点をいくつかご紹介します。
遺産分割協議はどうなる?
胎児にも相続権があるとお話しましたが、では遺産分割協議を行う場合にはどのように対処すれば良いのでしょうか?
遺産分割協議の際に胎児が相続人として該当している場合、特別代理人の選任を家庭裁判所にお願いしなければなりません。
本来であれば子どもの代理人は親となりますが、遺産分割協議の場合には親が有利になるよう進めてしまう可能性もあるため、公平な判断ができるよう家庭裁判所が特別代理人を選任することになっているのです。
胎児は相続放棄ができる?
未成年者の場合、自分で相続放棄をすることができないと法律で決まっています。
これは胎児についても同じことが言えます。
そのため相続放棄を行いたい場合には代理人を立てて行う必要がありますが、この代理人を親権者とした場合には、親権者も胎児もともに相続を放棄しなければなりません。
例えば子どもだけ放棄するとした場合、これは子どもの不利益になると判断され、「利益相反」という行為とされてしまうのです。
このように子どもだけ相続放棄をしたい場合には、親権者に代わる代理人を決める必要があります。
この場合の代理人のことを「特別代理人」と言い、利害関係がないのであれば、基本的には誰でも構いませんが、家庭裁判所で許可をもらわなければなりません。
一般的には、祖父母や叔父、叔母などが選ばれることが多いでしょう。
親族に依頼できる人がいない場合には、司法書士や弁護士などの専門家に依頼してください。
相続放棄は、相続が開始されてから3カ月以内に行いますが、胎児の場合は生まれてから3カ月以内に手続きを行えば大丈夫です。
胎児は相続登記できる?
相続登記をしたい場合には、相続人へ名義変更する必要があります。
この場合承継した相続人の住所や名前を登記しなければなりませんが、まだ生まれていない場合は名前や住所が存在しません。
ではどのように対処するのかというと、相続登記に場合には登記先例というものがあります。
登記先例とは、法律で決められない細かな事例を定めたものとなりますが、胎児が相続登記する際の事例も以下のように定められています。
・胎児を相続人とする相続登記の申請は、胎児の氏名を「亡甲妻乙胎児」と提供する。
・胎児に関する相続登記を申請する場合、未成年者の法定代理の規定により、母親が代理として申請する。
このような手続きを行うことで、胎児の相続登記を行うことができます。
子どもが生まれた後、名前が決定すれば名前と住所の変更を忘れないように行いましょう。
万が一死産であった場合には、所有権更正登記の申請も忘れずに行ってください。
代襲相続は可能?
代襲相続とは、相続を行う前に相続人がすでに死亡し相続権が失われている場合、相続人の代わりに直系卑属が相続することを言います。
結論から言うと、胎児でも代襲相続を行うことができます。
どのような背景があるのか詳しく見ていきましょう。
民法第887条【子及びその代襲者等の相続権】では、以下のように定められています。
① 被相続人の子は、相続人となる。
② 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第891条【相続人の欠格事由】の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。
ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
③ 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第891条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。
また、民法第889条【直系尊属及び兄弟姉妹の相続権】も見てみましょう。
① 次に掲げる者は、第887条【子及びその代襲者等の相続権】の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
二 被相続人の兄弟姉妹
② 第887条第2項【代襲相続】の規定は、前項第二号の場合について準用する。
上記に該当する場合であれば、胎児にも相続権がありますので代襲相続権が認められるのです。
遺産分割協議は胎児が産まれるまで待つ?
胎児が生まれるまでは遺産分割協議は行えません。
なぜなら、産まれるまでは、相続人が確定されていないからです。
もし、産まれる前に遺産分割協議を行った場合は、無効となってしまいます。
例えば、胎児がいるのを知らずに遺産分割協議を行った場合、遺産分割協議は相続人全員で行わなければならないので、遺産分割協議をやり直さなければなりません。
また、生まれてきた子どもが被相続人の子どもか分からない場合は、DNA鑑定を行い、本当の親子かどうかを確認する必要があります。
そのため、胎児が産まれるまでは協議は行わない方が望ましいでしょう。
胎児が亡くなった場合について
死産の場合にはその子の相続権はなくなるとお話しましたが、亡くなるタイミングによって相続できる場合もあります。
いつ亡くなったかで異なる
胎児が相続人になるためには、生きて産まれてくることが条件です。
そのため母親のお腹の中にいる時に亡くなった場合は、相続人にはなれず相続権もありません。
死産も同様です。
しかし、生まれた瞬間は生きていたものの、すぐに亡くなってしまったという場合には相続権が与えられることになります。
胎児が亡くなったタイミングによって変わるということを覚えておいてください。
相続人に胎児がいる場合の相続税計算について
相続するのであれば、胎児であっても相続税を支払う義務があります。
子どもが生まれていない期間には相続税は科せられませんが、産まれた後には支払う必要があるので注意しましょう。
胎児が生まれたら、その翌日から10カ月以内に法定相続人が代理で申請を行ってください。
相続税の計算は、胎児が生まれる前と生まれた後で計算が変わってきます。
なぜかというと、相続税は相続する人数によって配分が変わってくるからです。
そのため、産まれる前に計算した相続税をすでに支払ってしまった場合には、出生後に正しく計算しなおす必要があります。
産まれる前に計算した相続税のほうが産まれたあとの相続税よりも高くなるため、この差分を正すためには、胎児が生まれて4カ月以内に更正の請求を行いましょう。
また、胎児を相続税計算に含めない場合には相続税が発生するものの、含めた場合には基礎控除の範囲に含まれるため相続税が発生しないということもありえます。
その場合には、産まれた日から2カ月後までに胎児以外の相続人が手続きを行うことで、申告を延長することもできます。
まとめ
今回は、胎児の遺産相続についてご紹介してきました。
胎児も遺産相続ができますが、産まれた後には手続きも多くやるべきことがたくさんあります。
出産後には、手続きの漏れがないよう確認し、話し合いながら進めて行く方が良いでしょう。
手続きは複雑で書類の書き方など難しいこともあるため、迷った場合には法律のプロである弁護士に相談するのも良いでしょう。
胎児が持てる権利をしっかりと活かせるよう、事前に調べて準備しておきましょうね。