以前はタブー視されがちだった、自分の死を意識し最期をよりよく締めくくるための準備である「終活」。
その言葉が出始めた当初は、自分の葬儀や墓を生前に準備することが主な意味でしたが、最近では、自分の望む医療や介護について、遺言、相続の準備といった身辺整理をしておくメリットにも注目され、広い意味を持つようになりました。
その「終活」のなかでも、自分の死後に自身で築いた財産をめぐり家族間でトラブルが起きないことを願ったり、社会貢献に使ってほしいと意思表示したりと、相続に関する心配をされる方は少なくありません。
その想い(遺言)を確実に書面に残し、実行する方法の1つが「遺言信託」です。
遺言信託を利用する上でのメリットやポイントについて解説していきたいと思います。
遺言信託とは?遺言を信託するとは?
遺言信託には
- 法的な意味として
- 信託銀行などの金融商品の1つとして
の、2つの意味があります。
まず、法的な意味としての遺言信託とは、信託法の第三条の二に「特定の者に対し財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の遺言をする方法」と規定されています。
これは、自分の財産を他人に運用してもらい、その利益は自分の指定した者(自分でも良い)に渡してもらうという仕組みです。
一般的にこの信託を行うには、委託者と受託者が信託契約を結びますが、委託者が遺言によって受託者に信託を依頼することもできます(受託者となるように遺言された方が、それを承諾するか否かは選択が可能)。
これが遺言信託の意味の1つです。
次に、信託銀行などの金融商品の1つとしての遺言信託とは、遺言書の作成から保管、遺言書の執行(本人が亡くなった後に相続手続きを信託銀行などが主導で進めること)を信託銀行などが行うことを意味します。
「相続対策をしたいけれど、どうしたら良いかわからない。」
「相続に関して不安を持っている。」
「相続人以外の人に相続したい。」
そんな時は遺言信託について専門家からメリットやデメリットを含め、アドバイスを受けてみましょう。
では「遺言を信託する」とはどういった意味でしょうか。
遺言とは、自分が生涯をかけて築きあげ、守ってきた大切な財産を、最も有意義に活用してもらうために行う遺言者による意思表示です。
遺言者が自分の亡くなった後の財産や遺産分割内容の希望を、自筆(自筆遺言)あるいは公正証書(公正証書遺言)や他の方式で作成します。
遺言者自身が自分の残した財産をどこに託すかを決め、相続に関するトラブルを防ぐことに主な目的とメリットがあります。
信託とは、自分が持つ財産を信託銀行等の受託者に託し、管理・運用してもらうことをいいます。
信託は、財産を信託する「委託者」、信託された財産を管理・運用する「受託者」、信託された財産から生じる利益を受け取る「受益者」で構成されます。
つまり、「遺言を信託する」とは、自分の遺した大切な財産を信頼する人へ託し、大切な人または自分のために管理・運用してもらう制度です。
財産の管理や運用を、誰のために、どういう目的で行うかを自分が決めて、信頼できる人に託すこと(信託すること)が大切です。
財産を信託された人(受託者)は、財産を信託する人(委託者)の決めた目的を実現させるよう、信託された財産を管理・運用します。
似たような言葉ですが遺言を信託するとなると、法律上の「信託」となります。
一方、信託銀行などの「遺言信託」はあくまで商品の名前なので、法的な意味の遺言信託とは違うものを指しますのでご注意ください。
銀行等における遺言信託のメリット
これから先は商品としての遺言信託について、メリットを踏まえて述べていきたいと思います。
実際に遺言信託を銀行等に依頼する場合、どのようなメリットがあるか見ていきましょう。
複雑で面倒な遺言書作成~相続までがスムーズに進む
遺言書は民法で定められた方式で作成しなければ、法的な効力を持ちません。
遺言の作成から執行(相続)までを専門家に任せることができるのは大きなメリットです。
遺言信託をすると遺言書を作る時に相談できるのもメリットで、一度作成した後でも節目節目に書き換えが可能です。
自分の土地や財産をよりメリットのある相続や運用の方法ができるよう、知識が豊富なアドバイスをしてくれます。
さらに、遺言書の保管方法や内容を確実に執行してくれるか?という不安もありますよね。
死後に確実に執行してもらえるというメリットは、遺言を残す上で重要なことです。
「遺言信託」をお願いすると、銀行等が遺言執行者となり銀行が遺言書の作成から保管、執行するという確実性が1つ目のメリットです。
せっかく遺言書を用意しても、自宅の金庫などで保管していて見つけてもらえないと意味がありません。
また、遺言書をなくしたり改ざんや不備があることが理由で、遺言が実現できないといったトラブルがなくなることもメリットです。
遺言信託を個人に依頼することも可能ですが、依頼した相手の病気や死亡などの個人的な状況の変化によって、遺言の執行が難しいケースも考えられます。
銀行等企業との契約をしての遺言信託の場合は、長期的で安定したサポートが見込め安心感があるのもメリットです。
相続人の間で起こるトラブルを防ぐことができる
2つ目のメリットはトラブルを回避できるという点です。
相続に関する家族間などでのトラブルが心配、という方も多いのではないでしょうか。
遺言信託を利用すると自分の亡くなった後に遺言の執行、つまり残された側の相続の手続きを確実に行ってもらえる点もメリットです。
相続税の申告や預貯金の名義変更、不動産の相続登記など、相続にあたっての手続きは数多くの書類をそろえる必要があります。
遺族の労力を考えるとそれらの手続きをサポートしてくれる遺言信託のメリットは大きいでしょう。
注意が必要なのは、金融商品としての遺言信託はあくまでも「商品」のため、実際に起こる相続トラブルには対応できない点です。
万が一トラブルが起きてしまった場合は、法律の専門家である弁護士にお願いする必要があります。
その際もメリットとなるのは、遺言信託で作成した法的な効力のある遺言書であるという点です。
相続について被相続人の死後も被相続人の遺志を引き継げる
3つ目は被相続人の死後も被相続人の遺志を引き継げるというメリットです。
被相続人とは、財産を遺して亡くなった方の事をいいます。
遺産の相続が起きた際に残された者同士でトラブルが起きないよう、誰が相続人となるか、相続人が受け取れる遺産の相続分はどのくらいになるのか、また、財産の分配をどのようにするかなどが法律(民法)で定められています。
そもそも相続人に引き継ぐ財産は、被相続人が生前に築いた権利や義務です。
したがって、被相続人の意思や考えは亡くなった後の相続でもできる限り尊重されるべきだとされています。
遺言信託をしておくと被相続人が亡くなった後も、相続への意志を明確に表示できるというメリットがあります。
「財産の全てを配偶者に残したい」「法定相続人以外にも、世話になった人に財産を配分したい」「学校やボランティア団体に全額寄付をしたい」など、遺言信託をしていれば財産と共に生前の遺志はしっかりと引き継がれます。
遺言信託を利用する上でのポイント
ここまでは、遺言信託を利用した際のメリットについてお話してきました。
では、より安心して遺言信託を利用するためにはどういった点に気を付ければ良いのでしょうか。
重大な相続トラブルが起こる可能性が高い場合は弁護士にも相談しておいたほうが良い
遺言信託はあくまでも金融商品である、というのは先述のとおりですが、具体的にはどういうことなのでしょうか。
それは、相続でトラブルが起こった、もしくは起きそうな場合に、信託銀行が遺言執行者になるのを辞退しうる点です。
例えば、遺言信託によって遺言者の希望をもとに遺言書を作成しても、その内容に相続人の全員が納得するとは限りません。
弁護士法第七十二条において、弁護士でない者が報酬を得る目的でトラブルを扱う事は禁じられています。
信託銀行ではこれに抵触するのを避けるために、遺言執行者になる事を辞退する場合があるのです。
また、信託銀行が遺言執行者として行えることは財産に関することのみなので、子供の認知や相続人の廃除といった、身分に関することは行えません。
さらには相続税の申告が必要な場合は別途税理士に依頼する必要もあります。
遺言信託を弁護士や税理士にもお願いしておくと専門的な対処ができるメリットがあるので、これらの可能性が考えられる場合は事前に相談しておきましょう。
依頼した銀行が破綻しないとも限らないので依頼先は慎重に選ぶ
遺言信託は金融商品であるということには、メリットだけでなくリスクが付きものです。
リスクの1つとして、依頼先の銀行が破綻する可能性があります。
遺言信託の内容と少し離れますが、もし銀行が倒産してしまったらどうなるのでしょうか。
私達がお金を預けている多くの金融機関は、「預金保険制度」に加入しています。
預金保険制度というのは、私達の預けているお金を守る保険制度です。
注意しなければならないのは、預金保険の対象となる金融機関は、日本国内に本店がある銀行、信用金庫、信用組合、労働金庫、信金中央金庫、全国信用協同組合連合会、労働金庫連合会、商工組合中央金庫です。
これらの金融機関の海外の支店や、外国銀行の在日支店は対象外です。
肝心なその保証内容ですが、銀行が破綻した場合、その銀行に預けていたお金を、「預金者1人当たり元本1,000万円までとその利息等」を保証して払戻しが可能です。
この金額は預金保険制度で定められている額ですが、この額を越える部分は破綻した銀行の破綻時の財産の状況などに応じて支払われることになっています。
しかし、すべての金融商品がその保証の対象となるわけではありません。
全額保護されるのは決済性預金といって「引落等ができる口座であること」「預金者が払戻しをいつでも請求できること」「利息がつかないこと」を満たす預金のことです。
具体的には当座預金や利息のつかない普通預金などを指します。
預金者1人当たり元本1,000万円までとその利息等が保証されるのは、一般的な預金です。
具体的には、利息のつく普通預金、定期預金、貯蓄預金、別段預金、通知預金、納税準備預金、定期積金、元本補てん契約のある金融信託(ビッグ等)、金融債(保護預かり契約のあるもの)などといった商品です。
保護の対象とならないのは、外貨預金、譲渡性預金、元本補てん契約のない金銭信託(ヒット、スーパーヒットなど)、金融債(保護預かり契約のないもの)などの商品です。
銀行によって細かい保証内容などが異なりますが、自分の預金口座がある銀行が遺言信託を行っているかだけでなく、この辺りを踏まえた資産状況の確認やメリットを加味し、どの銀行で遺言信託をお願いするかを考えてみてはいかがでしょうか。
自筆証明遺言は受け付けてくれない。公正証書遺言を
信託銀行では、トラブルが起きそうな遺言信託では遺言執行人を引き受けない可能性があります。
その一環として、内容や手続きの面での有効性が確実な公正証書遺言のみを引き受け、自分で書いた自筆証書遺言の遺言信託は引き受けてくれません。
公正証書遺言の方式は、民法第九六九条によって定められています。
遺言信託のメリットでも触れたとおり、法的な効力を持つ公正証書遺言を作成しておくと確実といえます。
まとめ
銀行等が行う「遺言信託」は、相続の複雑で専門的な手続きをまとめて行ってくれます。
遺言信託は、個人ではない公共性や信頼性を持つ銀行等に依頼することで、安心感が得られるというメリットがあります。
また銀行等によっては遺言信託だけでなくお金に関するあらゆる相談に乗ってもらえるメリットもありますので、まさに頼もしい味方といえます。
面倒な手続きをしたくない、忙しくて遺言書を作成できない、相続のことで家族に心配をかけたくないなど、相続に不安や悩みがある方は、今回紹介したメリットを踏まえて遺言信託の利用を検討してみてはいかがでしょうか。