遺言書の書き方やタイミングについては、教わる機会がほとんどありませんので、分からない人が多いと思います。
日本財団の「遺言書に関する調査」によると、実際に遺言書を書いたことがある人は、男性が63%、女性が37%と、全体的に少ないことがわかります。
また、男性よりも女性の方が遺言書を書いている人の割合が少ないといった特徴があります。
この結果からもわかるように遺言書という言葉を聞いたことがあっても、実際に書く人は少ないのが現実です。
しかし、遺言書を作成してない人の中には、遺言書の書き方がわからず、書けない人や遺言書の作成にはお金がかかると思っている人もいることでしょう。
そんな方にもぜひ知っていただきたいのが、自分で作成することができる自筆証書遺言の書き方です。
それでは、遺言書の書き方や注意点についてご紹介いたします。
遺言書の基礎知識
遺言書を作成する際は、正しい知識を持っておくことが必要です。
ここでは、遺言書の基礎知識についてご紹介いたします。
遺言書の効力
まず、遺言書の効力について、民法に定められている内容を見ていきましょう。
遺言書の効力については、民法の「第七章 遺言 第一節 総則」において、下記のように定められています。
(遺言の方式)
第九百六十条 遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。
(遺言能力)
第九百六十一条 十五歳に達した者は、遺言をすることができる。
第九百六十二条 第五条、第九条、第十三条及び第十七条の規定は、遺言については、適用しない。
第九百六十三条 遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。
(引用:民法第960条、第961条、第962条、第963条)
民法第960条に定められているように、遺言書は15歳以上でなければ作成することができません。
また、遺言者は遺言を残せる状態になければなりません。
これは、痴呆が進んでいて十分な判断能力がない場合などは、遺言書を作成していたとしても、その効力が発揮されない可能性があるということです。
そして、遺言書には決まった形式があります。
この方式に則っていなければ、遺言書を作成したとしても、法的な効力がなく、遺産分割などを遺言書の通りに行うことができません。
このように、遺言書の効力を発揮するためには、きちんと遺言書の作成におけるルールを知っておく必要があります。
遺言書の種類
遺言書の種類には、普通式遺言書と特別式遺言の2種類があります。
基本的には、普通式遺言書を選択しなければならないことが、民法(普通の方式による遺言の種類)第967条において定められています。
普通式遺言書は、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3種類に分けられます。
特別式遺言も3種類に分けられますが、特別な状況に置かれた場合のみに選択する遺言書です。
これらは民法(死亡の危急に迫った者の遺言)第976条、民法(伝染病隔離者の遺言)第977条、民法(在船者の遺言)第978条、民法(船舶遭難者の遺言)第979条において、それぞれ定められています。
また、日本財団の「遺言書に関する調査」によると、作成された遺言書の種類について、自筆証書遺言は69.5%、公正証書遺言は17.5%、秘密証書遺言は1.5%、わからないは11.5%となっています。
このように、手軽に作成ができる自筆証書遺言が一番多く作成されています。
これらの普通式遺言については、下記のように詳しく民法に記載があります。
▼自筆証書遺言
民法(自筆証書遺言)第968条
- 自筆ですべてを書いて押印すること
▼公正証書遺言
民法(公正証書遺言)第969条
- 証人2人以上の立会いのもと作成すること
- 遺言者が遺言の内容を公証人(弁護士など)に口授すること
- 公証人は遺言者の口述を筆記したあと、遺言者と証人に読み聞かせるか、閲覧させること
- 遺言者と証人が遺言書の内容が正確だと承認したあとで、それぞれ署名して押印すること(ただし、遺言者が署名することができない理由がある場合は、公証人がその理由を記載して署名とすることができる)
▼秘密証書遺言
民法(秘密証書遺言)第970条
- 遺言者が遺言書に署名して押印すること
- 遺言者が遺言書に使用した印章で封印すること
- 遺言者が公証人1と証人2人以上の前に封書を提出し、自分の遺言書であること
- 遺言者本人が氏名と住所を申述すること
- 公証人が、遺言書を提出した日告げと遺言者の申述を封紙に記載して、遺言者と証人と一緒に署名と押印をすること
自筆遺言書の書き方
自筆証書遺言は、15歳以上であれば、紙とペン、実印があれば今すぐにでも書くことができます。
自筆遺言書の場合は、紙の大きさもペンの種類にも規定はありません。
ただし、遺言書なので、自筆証書遺言は、民法(自筆証書遺言)第968条1において、遺言書をすべて手書きで書かなければならないと定められています。
これは、遺言書の本文だけでなく、財産目録についても同じです。
また、民法(自筆証書遺言)第968条2において、自筆証書遺言の内容を書き間違えたたり、加筆したりなどの修正を行う場合は、遺言者が修正箇所を示して、変更したことを付記した上で、署名と修正した箇所に押印するといった方法で訂正しなければならないということが定められています。
これらが守られていない自筆証書遺言は、法的効力をもたないため、自筆証書遺言で遺言書を作成する場合は細心の注意が必要な遺言形式であるといえるでしょう。
このように、自筆証書遺言はすべて手書きで書かなければならないうえに、書き間違えた際の訂正にも決まりがある一方、紙やペンなどは何を使ってもよいといった自由な側面も持っています。
自筆遺言書を書く際の注意点
自筆証書遺言の場合、費用もかからず、誰もが簡単に作成出来るメリットがありますが、注意しなければならない点も多くあります。
自分で作成する以上、遺言書が正しく作成されているか、判断をしてくれる人がいないからです。
自筆証書遺言を書く際の注意点は大きく分けて7つあります。
遺言書を正しく作成する
自筆証書遺言で特に問題になってしまうのが、遺言書を正しく作成できていない場合です。
遺言書は正しく作成されないと法的効力を持ちません。
そのため、せっかく遺言書を作成したとしても、そこに書かれたことの意味がまったくなくなってしまうのです。
遺言書を作成するときは、法的効力をきちんと発揮できるように、十分に自筆証書遺言について理解してから作成することが大切です。
手書きで作成する
「遺言書を正しく作成する」の範囲にもなりますが、「手書きで作成する」ことが前提条件としてあげられます。
パソコンなどで作成した遺言書は認められないので、必ず手書きで作成するようにしましょう。
筆記用具は自由のため、鉛筆やボールペン、万年筆など自分の好きなものを使用して書くことが可能です。
ただ、手が不自由など、手書きで作成することが難しい場合などは、公正証書遺言など別の方法を取ることが必要です。
そして、手書きで作成しなければならないことで特に負担がかかっていたのが、財産目録の作成でした。
これは財産が多ければ多いほど、たくさん書かなければならず、もちろん1つの間違いも許されません。
通帳のコピーなどの添付も認められていないので、財産について一つ一つ手書きで記載していく必要がありました。
しかし、平成30年7月6日に民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号)が成立し、平成31年7月1日から施行されました。
自筆証書遺言に関して改正されたのは、財産目録を手書きしなければならないという点です。
法律改正後は、財産目録はパソコンで作成したり、通帳のコピーや不動産の登記事項証明書などを添付したりすればよいことになったため、手書きで作成する必要がなくなりました。
そのため、財産が多い場合にかなりの負担になっていた部分が改善されます。
ただし、財産目録のそれぞれのページには署名と押印をしなければならないので忘れないようにしましょう。
また、前述の通り、遺言書の本文は手書きする必要があるので、その点には注意が必要です。
日付は年月日で書く
日本では、年月日を和暦を使って書くことも西暦を使って書くこともできます。
遺言書には、年月日が記載されていればよいので、和暦でも西暦でも問題がありません。
また、年月日は遺言書の用紙自体に書くことが大切です。
封筒のみに記載している場合は、法的効力が認められないことがあります。
署名する
遺言書を作成する際は必ず署名が必要です。
署名も自筆である必要があります。
また、修正した箇所がある場合は、修正箇所を示して、変更したことを付記して署名をしなければなりません。
押印する
署名をしたら、忘れずに押印しましょう。これも署名同様、絶対に必要です。
印鑑は実印でなければならないというわけではありませんが、実印で押印していればトラブルが起こる確率を下げることが可能です。
また、実印を印鑑証明登録しておくことで、さらにトラブル回避をすることができると言えるでしょう。
また、修正箇所がある場合は、その修正箇所に押印しなければなりません。
遺言書の存在を法定相続人に知らせる必要がある
被相続人が亡くなったときに、遺言書の有無がわからず、後々見つかってトラブルに発展することがあります。
そのようなトラブルを防ぐためにも、遺言書の存在を法定相続人には知らせるようにしておきましょう。
遺言書の加筆修正など変更を行った場合はその旨を遺言書に記載しなければならない
遺言書を作成した際、後から加筆修正などを行うことがあるかと思います。
その場合は、遺言書を作成した本人である遺言者が、どの部分を変更したかを明示し、変更したことを遺言書に書き加え、変更した箇所に押印した上で署名しなければなりません。
これは民法(自筆証書遺言)第968条2において定められています。
これらのことがなされていない場合、法的効力がないものとみなされてしまうので注意が必要です。
遺言書の確認には検認が必要
遺言書の検認とは、相続人に遺言の存在と内容を知らせることであり、遺言書が有効であるか、無効であるかを判断するわけではありません。
遺言書の検認は、下記4点を明確にし、偽造や変造を防ぐ目的があります。
- 遺言書の形状
- 加除訂正の状態
- 日付
- 署名
そして、公正証書遺言以外の遺言書がある場合、遺言書を保管していた相続人や遺言書を発見した相続人は、申立人として、被相続人が亡くなったことがわかった段階で、遺言書の検認を受けるために、その遺言書を家庭裁判所に提出しなければなりません。
封印されている遺言書の場合は、相続人またはその代理人が立ち会った上で家庭裁判所で開封する決まりになっています。
また、裁判所に遺言書の検認を申し立てる場合は、遺言書1通につき、収入印紙及び連絡用の郵便切手が必要となります。
遺言書の検認については、民法(遺言書の検認)第1004条において定められていますが、これは公正証書遺言には適用されないものです。
万が一、家庭裁判所に遺言書を提出せず、検認をしないで遺言を執行した場合や家庭裁判所以外の場所で遺言書を開封した場合は、5万円以下の過料に処されることになります。
これは、民法(過料)第1005条において定められています。
まとめ
このように、遺言書には民法で定められた形式があり、正しく作成しなければ、法的効力がなく、せっかく遺言書を作成しても意味をなさなくなってしまいます。
ですから、遺言書を作成する際は、正しい知識を持ち、きちんと作成できているかを確認した上で残すことが大切です。
特に自筆証書遺言の場合は、手書きで作成するため注意が必要です。
また、遺言書は残された家族などにとって、とても重要な役割を果たすものです。
財産が少ないから書かなくてよいというものではありません。
後々のトラブル回避のためにも法的効力のある遺言書の作成をしてみてはいかがでしょうか?