遺産を相続することになった場合、どのような遺産があるかを確認し、誰がどの程度相続するかを決定しなければなりません。
遺産は遺言書があれば把握しやすくはなりますが、遺言書がない場合には相続税の申告期限内に遺産をすべて調査して把握する必要があります。
このとき、遺産のすべてに評価が必要となります。
その中でも骨董品や美術品の相続税評価方法には、専門家の鑑定が必要など、ほかの遺産の評価方法とは少し異なった点があります。
それでは、骨董品や美術品の相続税評価額について詳しくご紹介いたします。
遺産の税金額が決まる相続税評価とは
遺産の相続税金額は遺産の評価金額で決定します。
また、相続税評価は、国税庁の「相続税財産評価に関する基本通達」基づいて行われます。
では、「相続税評価の方法」及び「相続税評価額の算出方法」について詳しくみていきましょう。
相続税評価の方法
相続税評価の方法は、相続財産の種類によって異なります。
相続財産は預貯金(普通預金と定期預金によっても評価方法は異なります)やゴルフ権などの権利、土地や建物の不動産、骨董品や自動車などの動産によって、それぞれに適した評価方法で相続税評価が行われます。
一例を見ていきましょう。
≪預貯金の評価方法≫
相続開始日の預入残高及び解約したときに支払いを受けられる既経過利子の額の合計額で評価します。
※解約したときとは、相続開始日に解約したとします。
≪ゴルフ会員権の評価方法≫
課税時期の取引価格の70%に相当する金額によって評価します。
※課税時期とは、被相続人の死亡の日にあたります。
(引用:国税庁ホームページの財産の評価の「No.4647 ゴルフ会員権の評価」より)
≪家屋の評価方法≫
固定資産税評価額に1.0倍して評価します。
※評価額は固定資産税評価額と同じになります。
(引用:国税庁ホームページの財産の評価の「No.4602 土地家屋の評価」より)
また、家屋においては、建築途中の場合ですと通常の家屋と違った評価方法となります。
建築途中の家屋の評価額=費用現価の額×70%
※費用現価とは、被相続人が死亡した日である課税時期において、建物に投下された建築費用の金額を課税時期の金額に直した額の合計額のことです。
(引用:国税庁ホームページの財産の評価の「No.4629 建築中の家屋の評価」より)
このように、相続税額の評価方法は相続財産によって異なるため、相続財産をひとつずつ評価していくのは相続財産が多ければ多いほど時間がかかる作業となります。
相続税評価額の算出方法
相続税評価額の算出方法は、財産によってその算出方法が異なります。
たとえば、預貯金であれば、相続を開始した時期の預入残高になりますし、骨董品や美術品であれば、鑑定士などの専門家による評価によって、相続税評価額は算出されます。
また、土地であれば、路線価方式(道路に面している標準的な宅地の1平方メートルあたり価額を路面価といい、1,000円単位で表示されているものです。
この路線価を使用して評価します)や倍率方式(路線価が定められていない地域で、土地の固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて評価します)があります。
このように、相続税評価額の算出方法と一口にいっても、その方法は相続財産によって異なり、すべてが同じ方法であるというわけではありません。
ですが、相続が起きた日時点の時価で相続税評価額を算出するという共通点はあります。
骨董品や美術品の相続評価方法
骨董品や美術品の相続評価方法は、相続税財産評価に関する基本通達「第4節書画骨とう品」(書画骨とう品の評価)No.135によると、「売買実例価額」及び「精通者意見価格」などを比較して参考にした上で相続税評価することが定められています。
つまり、骨董品や美術品の相続評価をする場合には、まず、真贋鑑定(本物か偽物かの鑑定)を行います。
その後、鑑定書または鑑定書に類似した証明書を付けると、骨董品や美術品の価値が高まるとされる場合には、鑑定人などに鑑定を依頼します。
骨董品や美術品の相続評価は、それらの種別や作者別、または年代別など、市場価格や類似品の取引価格を参考に評価することになっています。
しかしながら、骨董品の場合、有名な作品であったとしても、箱書や奥書、鑑定書などの有無、また鑑定者が有名であるか無名であるかによっても、相続税評価額には差が出てしまうのでその点についても理解しておくことが必要です。
また、見積価額がある程度低額だとされる財産が大半を占める場合には、参考となる取引事例をもとに評価ができると認められれば、精通者の意見などを参考にするなどして、簡易的な方法で評価しても問題がないことになっています。
鑑定士による評価
鑑定士による骨董品や美術品を相続税評価する場合は、まず専門家の鑑定を受けることでその価値を明確にすることができます。
鑑定士による鑑定は、骨董品や美術品を持ち込んで鑑定してもらう方法をはじめ、写真を郵送またはメールで送り鑑定してもらう方法や鑑定士に自宅まで出張して鑑定してもらう方法、宅配便で送れるものならば宅配便で送り鑑定してもらう方法などがあります。
ただし、鑑定方法についてはすべての鑑定士が同一なわけではないので相続人の都合に合った鑑定方法が選べる鑑定士に依頼するようにしましょう。
また、自宅まで出張して鑑定してもらう場合には、鑑定料とは別途交通費などがかかることがあるので利用するときは注意が必要です。
そのほか、鑑定してもらう前に見積もりを取れる場合もあるので、鑑定料がいくらかかるか事前確認するようにしましょう。
買取業者による評価
骨董品や美術品の買取業者による評価の場合は、買取をすることが前提となっている評価額となるため、相続税財産評価額とは金額が異なることを知っておいてください。
骨董品や美術品の相続税評価は、鑑定士が行う場合には、有料で行われるのが一般的ではありますが、買取業者が買取をするために評価をする場合には、買取をすることが目的であるため、評価をすること自体は無料やそれに近い金額で行ってもらえます。
ですから、骨董品や美術品のおおよその評価額や真贋について知りたい場合に評価をしてもらうのには適していますが、相続税評価額としての評価の参考にするには向いていません。
税務署による評価
相続することがわかった段階で税理士に依頼することもできますが、税理士に依頼すると費用がかかります。
しかしながら、税務署に赴いたり、電話したりすることで相続に関する相談をすることができます。
これは骨董品や美術品の相続税評価についても同じです。
ただし、税務署には、鑑定士など骨董品や美術品に関して、正確に鑑定ができる専門家がいるわけではないので、基本的には相続人で相続税評価額を算出するように促されるようです。
ですから、骨董損や美術品の相続税評価額に関しては、確実な返答は期待できないことを前提に税務署には相談が可能である、といった程度の認識にとどめておくのがよいでしょう。
骨董品の相続税計算方法
骨董品の相続税計算方法ですが、基本的には相続税評価は時価で行われます。
しかし、購入額が数十万円程度の場合は、骨董品としてではなく家財として、相続税申告を行っても問題がないと考えられています。
このとき、ほかに相続する家財がある場合には、合算して申告することになります。
骨董品を相続する前に必要な準備
骨董品を相続する前に必要な準備は大きく分けて3つあります。
それでは、順番に見ていきましょう。
まず、1つ目には「相続する財産がどの程度あるかを明確にしておくこと」が挙げられます。
相続する財産の中に骨董品がある場合、それらの評価をしなければなりません。
ですから、骨董品が相続財産の中にあるとわかった時点で、鑑定士に評価の依頼をする必要があります。
2つ目には「鑑定士を探すこと」が挙げられます。
骨董品を相続する前に評価をしてもらわなければならないので、鑑定が必須となります。
そのとき、必要になるのが鑑定士です。
骨董品の鑑定ができる鑑定士のいる古美術商などを探しておくことも大切な準備です。
3つ目には「生前に骨董品の鑑定をしておくこと」が挙げられます。
これは、被相続人が準備しておくべきことですが、被相続人が財産として骨董品を残す場合には、その価値が明確であれば、相続するときに相続人はスムーズに相続することができます。
また、骨董品の鑑定料を相続人の誰が支払うかなどの問題も起きることがありません。
ですから、骨董品を相続するのであれば、事前に被相続人に鑑定をしておいてもらうようお願いするのも重要な準備の1つであるといえるでしょう。
このように、骨董品を相続する前に必要な準備には、相続するときになって必要となる準備と、あらかじめ被相続人が生前にしておくとよい準備の2種類があります。
財産を相続するときには、鑑定以外にも時間も手間もかかる手続きが多くあります。
ですから、できることなら、被相続人が生前に骨董品の鑑定を行っておくことがのぞましいといえるでしょう。
骨董品を相続する際に気をつけるべきこと
骨董品を相続する際に気をつけるべきことは、3点あります。
まず、1つ目には「鑑定が必要な骨董品か不要な骨董品であるかを確認すること」が挙げられます。
骨董品においては、相続人には価値がわからない可能性があります。
そのため、鑑定が必要な骨董品であるか、鑑定が不要な骨董品であるかの判断がつかない傾向にあります。
低額の骨董品であれば、わざわざ鑑定料を支払って鑑定してもらう必要はありません。
鑑定が必要な骨董品であるかどうかに悩んだ場合には、無料で査定してもらえる買取業者などに依頼して、だいたいの金額の目途をつけるといった方法をとることもできます。
ただし、買取業者の評価する買取金額は、正当な評価額とは異なっている点に注意してください。
2つ目には、「鑑定料の支出」が挙げられます。
骨董品を鑑定してもらう際に鑑定料がかかります。
相続するにあたり鑑定をしてもらわなければならいため、一見、相続にかかった費用として控除ができそうに感じることでしょう。
しかしながら、骨董品の鑑定料は控除の対象にはなっていないため、相続人の持ち出しとなってしまいます。
そのため、誰が鑑定料を支払うのかという理由でトラブルに発展することもありえます。
ですから、骨董品の鑑定を考えている場合にはその点も理解した上で依頼をすることが大切です。
3つ目には「高額なものであった際の対応」が挙げられます。
骨董品が高額であり、価値のあるものであるとわかった場合には、相続税が心配になることでしょう。
もちろん、相続することになれば、骨董品の価値に見合った相続税が課税されます。
しかし、相続税の支払いが難しいなどの場合には、寄附をすることで相続財産とみなされず、相続税が課税されないといった特例が利用できるため、骨董品が高額なものであった場合には、相続するか寄附をするかといった点を考慮する必要があります。
このように、骨董品を相続する際に気をつけるべきことには、さまざまなものがありますが、基本的には相続税などの金銭に関わる部分です。
骨董品が相続財産に含まれている場合には、早めにその価値を的確に判断することが重要であるといえるでしょう。
まとめ
相続税評価の方法は、相続財産によって異なるといった特徴を持っています。
相続税評価額も相続評価によって決まるため、相続税評価はとても重要なものであるといえるでしょう。
また、高額と思われる骨董品や美術品の相続税評価は、鑑定士に依頼し、適正な評価をしてもらい、相続税評価額を算出する必要があります。
ですが、高額ではない場合には、鑑定料だけがかかってしまうといったケースも考えられます。
鑑定料は控除できないため、鑑定を受ける際には鑑定を受けるべきものか受けなくてもいいものかといった判断もしなければならなりません。
骨董品や美術品の相続税評価の判断に不安を覚える場合には、最初は鑑定士に依頼するのではなく、税務署に相談したり、買取業者の評価を聞いたりすることもできます。
ただし、相続は時間との戦いでもあります。
さまざまなことをスムーズに行うために、骨董品や美術品が相続財産に含まれている場合は、専門家に相談して、相続税の申告に間に合うように段取りを取ることが大切であるといえるでしょう。