平成25年に動物愛護管理法が施行され、飼い主がペットを最後まで責任もって面倒をみる終生飼養が努力義務として明文化されました。
例えそうでなくとも、飼い主は最期を看取るまでペットに最大限の愛情を注ぎ家族同然として過ごすでしょう。
ある時、ペットの飼い主が亡くなった後、被相続人(故人)に多額の借金があることが発覚し、遺産の相続を放棄することにしました。
しかし、相続を放棄すれば、被相続人の遺産であるペットも放棄することになります。
さて、残されたペットはどうなってしまうのでしょうか?
大切なペットを手放さないために、相続放棄された場合のペットの対処について解説します。
相続放棄とは
多くの場合、人が亡くなると相続が発生し、被相続人の法定相続人にあたる子供や両親、兄弟、配偶者が遺産を相続します。
しかし、法定相続人が相続権利を保有しているのにも関わらず現金や預貯金、不動産などの遺産相続を一切しないことが相続放棄です。
相続放棄で多く見られるケースが、被相続人に多額の借金があった場合です。
相続は、プラスの財産だけではなく、借金などのマイナス財産も全て受け取らなければなりません。
被相続人が残した財産をプラス要素とマイナス要素で比較した時、プラス要素が多ければ相続する選択をするでしょう。
しかし、あまりにも借金を多く抱えている場合は、相続放棄という選択肢を取らざるを得ないでしょう。
単純承認
相続放棄をする場合、単純承認に注意しなければなりません。
単純承認とは、一切の条件をつけずに全ての財産を相続してしまうことです。
そして単純承認は、一定の事由により単純承認が成立してしまいます。
マイナスの負債が、プラスの財産の総額を超えていた場合、相続放棄の手段をとる方が相続人に負債が渡ることはありません。
しかし、相続放棄の手続き中に、ある行動をとってしまうと単純承認となってしまい、マイナスが多い遺産相続を単純承認してしまいます。
では、単純承認となってしまう条件をいくつかご説明していきます。
・単純承認となる条件
不動産を売却した時、預貯金を払い戻して自分のものとして使った時、物理的に壊したり捨てたりした場合に成立します。
相続財産の補修や相続債権の支払いをした場合は、単純承認とみなされず相続放棄することができます。
また、相続財産を隠匿し相続放棄をして、借金などのマイナス要素だけを免れようとした場合や、遺産目録に虚偽の記載をした場合など、背信的な行為をすれば単純承認となります。
例えば、遺産の内容を精査した上で、プラスの財産が残った部分を相続することができる、限定承認が生じた時に、判明している相続遺産を遺産リストに記述し、遺産目録を提出します。
この時、財産を隠すために偽った遺産目録を提出する人がいます。
このような虚偽の申告を行なった場合、限定承認、相続放棄を認められず、単純承認が成立します。
相続放棄を行なう際のポイント、注意点
・3ヵ月以内に行う
相当の理由がない場合は、基本的には相続開始後から3ヵ月以内での相続放棄を行う必要があります。
ここでの相当の理由とは、被相続人に資産や負債の存在があったことを認識してから3ヵ月経過していないという条件を満たしていることが前提です。
・相続開始前の相続放棄は不可能
相続放棄は、相続開始前つまり被相続人の生前に、相続人の間で相続放棄の約束をしていたとしても一切の効力を発揮しません。
相続放棄は、相続開始後に一定の手続きをした場合に効力が生じます。
・財産を管理する義務がある
相続人がいない場合は、被相続人の財産は相続財産管理人が管理・清算します。
相続を放棄した人間は、相続財産管理人に財産を引き渡すまで、その財産が失われないように管理する義務があります。
相続放棄した瞬間から全て解放されるわけではないので注意しましょう。
相続放棄のメリット、デメリット
相続放棄のメリット
・借金などを相続せずに済む
被相続人が、クレジットカードやサラ金などからお金を借りていた場合、誰かの連帯保証人になっていた場合、そのまま相続を続けてしまうとその負債を返済していかなければなりません。
未払いの家賃があったときや、被相続人が交通事故などを起こし被害者に対して損害賠償義務があった場合も相続人に対して債務が相続されることになります。
相続放棄をすれば、借金や未払い家賃、損害賠償など一切相続せずに済みます。
・遺産分割手続きを避けることができる
自分が法定相続人になっている場合、相続人同士で遺産分割について話し合いなどを行う遺産分割手続きをしなければなりません。
遺産分割手続きは、家庭裁判所で裁判や調停を行うようなトラブルを引き起こすケースが多々あります。
場合によっては、兄弟間で絶縁状態になることもあるので、できれば相続放棄で避けたいものです。
相続放棄のデメリット
・プラスの遺産も相続できない
相続放棄することで、借金を相続しなくて済む一方で、プラスになる財産も相続することができなくなります。
不動産などの大きな財産や高額な預貯金などがある場合、相続放棄を選択するとプラス資産も承継できなくなってしまいます。
・資産が失われてしまう
遺産の中には、先代から引き継いできた大切な不動産や、自分の思い出の詰まった生家があります。
相続放棄してしまえば、思い入れのある不動産などの資産も失くすことになります。
他の相続人が相続してくれれば資産として守ることができますが、自分しか相続人がいない場合や、相続人全員が相続放棄してしまえば、相続財産管理人が清算をして売却し、国庫に資産が行き渡ります。
ペットも財産とみなすのなら、相続放棄でも厳密には放棄すべき対象
被相続人がペット飼っていた場合、ペットも遺産として相続人に相続されることになります。
逆に言うと、被相続人に多額の借金があることが発覚した時、相続人は相続放棄を選ぶ可能性が大いにあります。
残されたペットはどうなってしまうのでしょうか?
ペットは法律上「モノ」として扱われる
まず、ペットは車や家具と同じように「モノ」として扱われますが、被相続人の財産の一部です。
そして相続人が相続放棄をしたとなると、被相続人のペットに対して管理する義務を持たないことになります。
ただし、相続放棄手続き中に市役所などでペットの所有者名義などを変更した場合、単純承認として扱われることがあります。
単純承認となれば、相続放棄できなくなる可能性があります。
財産的価値がない場合は?
通常の遺産相続では、金銭的価値がないものである場合、「形見分け」をすることに問題はありません。
しかし、財産的価値があるものは相続財産の処分をしたとされる可能性があり、相続放棄ができなくなる場合があります。
理論的・形式的にはペットも相続財産として扱われ、被相続人のペットを引き取った場合、100%相続放棄ができなくなるということはありません。
ペットショップやブリーダーなどで、血統書付きで高額購入したペットであれば財産的価値があると判断されます。
しかし、動物愛護団体や友人から譲り受けたペットである場合、財産的価値はほとんどありません。
ペットが財産上無価値(売却不可能)であることが明確になっているのであれば、ペットを「形見分け」として引き取り管理することが可能です。
相続放棄した人以外にペットの面倒を見る人がいない場合は
被相続人の遺産を、相続人の全員が相続放棄をした場合、遺産の一部として扱われるペットはどうなってしまうのでしょうか?
事実を結論として言うと、相続放棄した人以外にペットの面倒を見る人がいない場合には、知人や動物病院、ペット保護団体が引き取ります。
動物病院、ペット保護団体など
相続放棄によって、行き場を失ったペットを保護するために、多くのペット保護団体が積極的に働きかけています。
地元に根付いた強い地域ネットワークにより、保護すべきペットの情報をあらゆる手段を使って入手しています。
最近では、動物病院でも飼い主を亡くしたペットの里親探しに力を入れるようになりました。
一つ注意しなければならないのが、お近くの役所に直接、里親探しを相談してしまうと、その後保健所に連れていかれてしまいます。
地域によりますが、一定期間内に新しい里親が見つからなかった場合、殺処分になってしまうので役所への相談はおすすめしません。
ペットの相続放棄で困った場合、お住まいの地域周辺で活動されている動物愛護団体や動物病院に相談してみましょう。
相続財産管理人
相続人がいない場合、法律上では「相続人不在」と呼ばれます。
相続人不在の相続財産は「相続財産法人」と別の呼び方に変わり、家庭裁判所より「相続財産管理人」が特別に選任されます。
相続財産管理人は、その地域の弁護士が選ばれ、亡くなった人物が抱えていた債務の清算後、財産を国庫に帰属させる役割があります。
この手続きの途中で、新たな相続人がいるかどうか、一定期間確認を行ったのち、相続人が出てきた場合は、故人の財産やペットをその相続人が引き継ぐことになります。
飼い主は生前にペットについて対応しておくべき
相続人による相続放棄などで、自分の死後、残されたペットが行き場を失わないために、飼い主は生前に何ができるのでしょうか?
ペットの将来を守るために、飼い主が生前とるべき行動をご紹介します。
負担付死因贈与契約をする
ペットの飼い主が生前に、新しい飼い主にそのペットを終生お世話することを条件に、飼育費として遺産の全て、もしくは一部を贈与する契約があります。
これは書面による契約方法で、双方の合意に基づき行われます。
生前贈与契約は「今すぐあげる」という内容ですが、死因贈与契約は「亡くなってからあげる」と大きく違いがあります。
負担付死因贈与契約の大きな特徴は、飼い主である(贈与者)の生前からペットのお世話を任せることが可能です。
多くの場合、飼い主は亡くなるまでペットと一緒にいたいと思います。
しかし、病状の急変などで急死してしまう可能性も少なくはありません。
負担付死因贈与契約で、早い段階で飼育を任せておけば、事前にペットの性格や好きなことを伝えることができます。
ペットは、居住環境の変化にとても敏感です。
さらには、見知らぬ人間との生活の大きなストレスを感じるはずです。
飼い主の死後、ペットへの負荷を少しでも減らしていくためにも、負荷付死因贈与契約を結ぶことを検討しましょう。
遺言書を残す
生前に、ペットの面倒を見てくれる人物を遺言書に残していたとしても、自分の死後、本当にお世話をしてくれているのかどうか確認することができません。
もしかすると、遺産だけもらってペットのお世話を怠っているかもしれません。
それでは、故人も残されたペットも悲しむだけです。
これを防ぐ方法として飼い主は、遺言の中身を実現するために選任された「遺言執行者」を利用しましょう。
遺言執行者は、飼い主の死後、ペットを託された人間がきちんとお世話をしているのかを確認し、遺言書の内容に背いていた場合には、遺言執行者が相続者に履行を請求します。
ペットの飼い主は、遺言書の内容に信頼のおける人物を執行者として選び記載する必要があります。
ペット信託サービスを利用する
老犬・老猫ホームを探しておく
最近、犬や猫の寿命が長くなってきたことから、ペットの老後のお世話をする施設が多く見られるようになってきました。
ペットを飼われている方の多くは、犬や猫を飼われていると思います。
飼い主がなくなってしまった時には、ペットも高齢化している場合が多く、動物愛護団体に保護されたとしても、高齢のペットに飼い手は見つかりにくいものです。
そういったペット達の受け皿になるのが、老犬・老猫ホームです。
ペット信託サービスとは
生前整理の一環として、「ペット信託サービス」の利用が増加しています。
管理会社にペットのために残す老犬・老猫ホーム代を移し、飼い主を代表とする管理会社を設立します。
新しい里親を受益者とした遺言書を作成し、管理会社に移した財産がきちんと老犬ホーム代に使われるように受益者と信託契約書を交わします。
そして、弁護士や行政書士からなる信託管理人により、契約が守られているか見守られ、管理が行われます。
飼い主の死後、受益者が老犬・老猫ホーム代として財産を相続します。
ペット信託のメリットは、財産を管理会社に移すことで相続人同士のトラブルを避け、確実に財産を残すことで、安心してペットの生活を任せることが特長です。
まとめ
ペットは亡くなった飼い主にとって何よりの財産です。
どうにかして近親者である相続人に、面倒をみてもらいたいと思うこともあるでしょう。
しかし、負債を抱えている場合は、高額なペットの相続放棄を手段として選ぶかもしれません。
その場合、飼い主の知人宅では数日しか預かれず、保護施設に連れてかれるなどして、最終的には殺処分になる可能性も少なくはありません。
飼い主の死後、ペットが大事に扱われるために、生前に取れる行動はたくさんあります。
専門家と一緒にご家族とペットにとってベストな選択肢を決め、準備を進めましょう。