相続税法の改正により、多くの人が相続税を支払う可能性が高まってきました。
しかし、支払う必要がある対象は、一体誰なのでしょうか。
おそらく、大切な人を失った後に、自分は相続税を支払う必要があるかどうかを即座に判断できる人はいないでしょう。
本稿では、事前に準備している人や、これから相続税の支払いの有無を考える人へ、相続税を支払う対象者について、解説します。
相続税の滞納などが起こらないように法律をしっかりと確認しておきましょう。
相続税を支払うのは誰?
まず、相続税は故人の遺産を相続した全ての人が対象になる訳ではありません。
相続した遺産の総額が
3,000万円+(600万円×法定相続人の数)、
つまり課税対象額が3600万円を超える人でないと支払いの対象になりません。
この相続税を支払う必要のない金額を基礎控除額と呼びます。
基礎控除額の法定相続人には、相続放棄した法定相続人も法定相続人の数に含めます。
法定相続人とは法律上、相続の対象になると考えられる人です。次の人が該当します。
・ 配偶者
・ 親、子など一親等の血族
・ 代襲相続人の孫
相続税は、受け取った遺産の金額に応じて課されます。
そのため、多くの遺産を受け取った人がより多くの相続税を多く払うことになります。
相続税は受け取った相続人が、それぞれ申告し、納税するものです。
相続人の内の誰かが代表して支払うものではありません。
他の相続人が、代理で相続税を支払うと贈与とみなされ、贈与税の課税対象になるので注意しましょう。
法定相続人でない人が遺言などによって遺産を受け取るケースもあると思います。
その際も、相続税を納税する義務があります。
その場合、法定相続人でない人が納める相続税は通常よりも2割加算されます。
また、連帯納付義務にも注意しましょう。
連帯納付義務とは相続人が相続税を滞納した際に、残りの相続人が相続で受け取った額を限度に連帯して納付する制度です。
1人でも相続税を納税しない人がでると、税務署から他の相続人の方に納付通知書が送付されます。
その為、相続人全員がしっかりと相続税を納税したか確認するようにしましょう。
他の相続人に迷惑がかからないように、自身の納税手続きはぬかりなく行うことが大切です。
相続税が発生しないケースもある
前述の通り、相続税の申告、納付が必要なのは相続財産が基礎控除額を上回る人のみです。相続財産が基礎控除額(3,000万円+(600万円×法定相続人の数))未満の場合は、相続税はかからず、申告も必要ありません。
相続財産は、故人が亡くなった際に保有していた財産だけではなく、生前3年以内に贈与を受けた財産も一部が対象になるので、注意が必要です。
また、故人が負っていた借金、死亡時にかかった葬式の費用は、相続財産の計算から差し引かれます。
遺産の種類によって控除も存在します。
生命保険金、死亡退職金は、受け取った金額から、一定の非課税控除額を引いた額のみを足します。
相続税を減額するために生前に対策できることもある
相続税を減額するための対策は多くあります。
節税対策を実施することで数百万円、数千万円単位の節税を行うことも可能です。
具体的な対策方法をいくつかご紹介しましょう。
・毎年、110万円以内の贈与を行う
年間110万円以内であれば贈与税がかかりません。
年間110万円以内の生前贈与を行うことで毎年贈与したお金が非課税になります。
早くから実施するほど、非課税の額も大きくなるので早めにコツコツと実施していくことが重要です。
税務署に対して贈与を証明するために、贈与の際には贈与契約書を作成するとよいでしょう。
ただし、相続の発生前の3年内に贈与された額は相続税の対象財産に加算しなければなりません。
亡くなる直前に贈与を行っても節税効果がないので注意しましょう。
・毎年110万円以上の贈与を行う
贈与税を支払った方が、相続税よりも有利となる場合もあります。
特に、相続の額の多い資産家の場合は大きな節税効果が期待できます。
・教育資金贈与を行う
教育資金の一括贈与特例にもとづいて、子や孫に無税で1,500万円までの教育費を一括贈与できます。
この制度を利用する場合は、金融機関が取り扱う教育資金贈与信託を活用する必要があります。
贈与したお金は教育資金以外でしか利用できません。
塾などの学校以外の教育費でも500万円まで、非課税で贈与できます。
生前贈与は利用しやすい対策です。
ただし、誤った方法で生前贈与を行うと後々税務署とのトラブルに発展します。
例えば贈与を行った被相続人は贈与した財産の管理を行ってはいけません。
管理を被相続人が行っていたことになると、実際には贈与をしていなかったとみなされます。
贈与を行う際には計画的におこないましょう。
・おしどり贈与を行う
おしどり贈与という特例を活用して、配偶者に自宅を最高2,110万円分まで非課税で贈与することができます。
婚姻期間が20年以上の夫婦で、居住用不動産の贈与、居住用不動産を取得するための資金の贈与が対象となります。
基礎控除110万円に加えて、最高2,000万円まで贈与税が無税になります。
贈与を受けた年の翌年の3月15日までに、実際にそこに住み、住み続けることが条件となります。
不動産投資用の物件は対象にならないので注意しましょう。
・生命保険を活用する
生命保険契約により故人の死後に支払われる死亡保険金については、「500万円×法定相続人の人数」まで相続税がかかりません。
リスクも少なく、利用しやすいため、相続税の節税対策としては、生前贈与の次によく活用される手法です。
生命保険は加入できる年齢が限られていると考えている方も多いと思います。
実際には相続税対策として90歳まで健康診断なしで加入できる生命保険もあります。
・賃貸マンションを購入する
第三者に賃貸する不動産は相続税の評価額が大きく下がります。
本来の時価よりも相続税評価額が低くなるように、不動産の評価方法が税法で定められているためです。
例えば、1億円で建築した賃貸マンションが相続税の評価の際には約5割以下の価格になります。
自己利用よりも賃貸用との方が相続税評価額は低くなるように設計されているため、節税対策であれば、賃貸マンションの購入がおすすめです。
土地は自己利用の場合で2割、賃貸用の場合で約4割、本来の時価と比べて相続税評価額が下がります。
建物は、固定資産税評価額にもとづいて評価されます。
固定資産税評価額は建築額の6割~7割程度になるため、現金と比べて3割~4割の節税になります。
そのため、不動産は本来の時価と比較して、評価額が約5割も下がります。
購入するのであれば、利便性のよい都内にあるワンルームマンションがおすすめです。
賃貸用ワンルームマンションは相続税評価額が時価の1/3程度になることが特徴です。
ワンルームマンションは建物の中の1部屋であるため、土地の所有権の割合が薄くなり、その分、評価額が大きく減額される仕組みになっているのです。
賃貸用の物件は、誰からも借りられず、賃貸収入がなくなってしまう空室リスクが伴います。
都内のワンルームマンションであれば、比較的空室リスクが少ないことが特徴です。
また、タワーマンションを節税対策に購入する際には高層階を購入することをおすすめします。
相続税評価の際には高層階でも低層階でもあまり変わらない価格がつきます。
そのため、時価と相続税評価額の差が大きくなる傾向にあります。
今後、高層階の評価方法が変わる可能性はあるので、税務情報の確認はしっかりしておきましょう。
・養子縁組を活用する
相続税の計算は相続人の数が多いほど相続税が減額される仕組みです。
そのため、養子縁組を活用して用紙を増やすことで相続税を節税することができます。
ただし、実子がいる方であれば、相続税の控除に含むことができる養子は1人まで、実子がいない方であれば、2人までと上限が決められています。
・海外に移住する
国籍が海外にあり、被相続人と相続人の両者が10年以上海外に住んでいて、相続財産が国外にある場合は相続税がかかりません。
実施のハードルは高いですが、海外移住を考えている方であれば、非常に魅力的な選択肢といえます。
被相続人の生前に相続税をシミュレーションしておくと困らない
相続税の税額は複雑です。
被相続人の死後に困らないように、被相続人の生前に相続税をシミュレーションしておくようにしましょう。
繰り返しになりますが、相続税は遺産の合計額が、
3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
を上回る場合に限って発生します。
まずは想定される遺産の合計額がこの金額内に収まるか、確認してみましょう。
おさまる場合は相続税を支払う義務がありません。
上回る場合、相続開始から10ヶ月以内に、相続税の申告をします。
具体的なシミュレーショの方法を見ていきましょう。
・相続財産の課税価格の計算
以下のような資産が相続税の課税対象になります。
・現金
・生命保険
・死亡退職金
・不動産
・有価証券
・骨董品
・著作権
・特許権
・ゴルフ会員権
遺産と負債の確認後に、相続する遺産の課税価格の計算を行いましょう。
遺産の内、非課税財産や負債があれば、相続財産からそれらを除外します。
非課税財産は、故人の葬儀に使った費用、墓石、仏具、公共の為に使われる資金、心身障害者共済制度に基づき支給される給付金などが対象となります。
お金以外の遺産は金銭的な価値への換算が必要です。
遺産が現金のみであれば計算は簡単なのですが、実際には不動産、骨董品など、簡単に値付けができないものも遺産に含まれることが多くあります。
また、持ち戻し計算といって、故人が亡くなる前の過去3年間に贈与された財産は相続財産の対象に含める必要があるので注意しましょう。
生命保険の保険金、死亡退職金については、「法定相続人の数×500万円」を控除した額を課税価格とします。
・相続税の総額の算出
課税価格から基礎控除の額を差し引いたものが課税遺産総額となります。
まずは課税遺産総額、続いて相続税総額を算出します。
相続人のいくらの相続が支払われるのかを計算をする際には、以下の法定相続分を参照してください。
・相続人が配偶者と子供:配偶者に2分の1、子供に2分の1
・相続人が配偶者と直系尊属:配偶者に3分の2、直系尊属に2分の1
・相続人が配偶者と兄弟姉妹:配偶者に4分の3、兄弟姉妹に4分の1
相続税総額を導くための税率は、はそれぞれの相続額によって異なります。
・1000万円以下:税率10%、控除額0円
・3000万円以下:税率15%、控除額50万円
・5000万円以下:税率20%、控除額200万円
・1億円以下:税率30%、控除額700万円
・2億円以下:税率40%、控除額1700万円
・3億円以下:税率45%、控除額2700万円
・6億円以下:税率50%、控除額4200万円
・6億円超:税率55%、控除額7200万円
仮に被相続人の財産の課税遺産総額が4,000万円で、故人には配偶者と2人の子供がいたとします。
相続人が配偶者と子供の場合、法定相続分は配偶者に2分の1、子供に2分の1となります。
2人の子供は、法定相続分を更に2人で分け合うことになります。
そのため、配偶者の法定相続分は2,000万円となり、子供の法定相続分は1,000万円ずつとなります。
すると、相続税は
配偶者:2,000万円×税率15%-50万円=250万円
子供①:1,000万円×税率10%=100万円
子供②:1,000万円×税率10%=100万円
となります。
・控除や加算の算定
相続人の状況に応じた控除や加算もあります。
・配偶者控除
配偶者控除は配偶者に適用され、以下の計算で算出されます。
配偶者控除の額=相続税総額×(配偶者の課税価格か1億6000万円内、少ない額)÷課税価格の合計
・未成年控除
未成年控除は未成年に適用され、以下の計算で算出されます。
20―相続人の現在の年齢×10万円
1年に満たない年齢は切り捨てします。
10歳4か月の場合は10年で計算します。
・障がい者控除
配偶者控除は障碍者に適用され、以下の計算で算出されます。
満85歳になるまでの年数×10万円
対象者が特別障害者である場合、20万円をかけます。
計算の際に1年未満の期間がある場合は1年として算定します。
・相続税額の2割加算
遺言などによって法定相続人以外の人が相続した場合(兄弟、孫養子など)は、相続税が2割加算されます。
控除の額がある場合でも相続税が2割加算を行った後に控除額の算定をします。
まとめ
相続税の支払い対象がおわかりになったでしょうか。
全ての人が支払いの対象になる訳ではありませんが、支払いの義務があったにも関わらず、相続税の申告、納付が漏れてしまうと、厳しいペナルティが課せられることになります。
心配な方は、税理士に相談するなどして、事前に相続の額や、支払う税金の額を確認するようにしておきましょう。