外国税額控除をご存知でしょうか。法人税、所得税においては比較的よく使われているものです。簡単に言うと、外国で徴収された税金は、日本では徴収しないという制度になります。
実は、この外国税額控除は相続税においても活用可能です。相続の際、故人が海外に財産を持っているケースもあると思います。海外に相続財産がある場合、日本の相続税と海外の相続税が二重で課せられてしまいます。外国税額控除はそのような二重課税を回避するために特例として設けられている制度です。
2015年の改正で、非課税枠の基礎控除額が引き下げられ、課税対象が広がったことにより、相続税はより身近なものになりました。亡くなった人の約6%が相続税を支払う見込みです。そのため、活用できる控除はしっかりと学習する必要があります。本稿では外国税額控除を使って相続税を抑える手法について紹介します。
外国税額控除を使えば相続税の負担が減る可能性がある
外国税額控除とは、外国で納付した税額を一定の範囲で日本の税額から控除する仕組みです。二重課税を防ぎます。所得税・法人税を例に、まずは、外国税額控除についてみていきましょう。
日本の居住者と法人の所得は、海外で稼いだお金も含めた「全世界所得」に課税がなされます。一方、国外の取引により外国で課税の対象となる所得を得た場合は、同じの所得に対して日本と外国の双方で課税を受けてしまいます。これを防ぐために、所得税・法人税の場合、外国税額控除制度により控除できる外国税の限度額が決まっており、次のように算出されます。
課税年度の所得に対する所得(法人)税×(課税年度の国外所得金額/課税年度の全世界所得金額)
上記の金額を上回る金額については控除の対象外となり、通常通りの支払を行う必要があります。
相続税の外国税額控除の対象となるのは故人の海外の財産に課された相続税額です。海外で徴収された税金が、日本で徴収される税金よりも高い場合は、その金額以上の税金を納める必要はありません。日本で徴収される税金が、海外で徴収された税金よりも高い場合には、差額分を日本で納税する必要があります。
どれだけ海外で相続税を納めていても、日本で算出された相続税以上は控除できないように設計されているのです。
具体的には、下記の計算式で外国税額控除の上限が決まります。この計算式で算出される外国税額控除の上限を、外国で納めた相続税がうわまわる場合は、この上限額が控除額となります。
日本で納める相続税の額 × 外国にある財産の額 ÷ 財産総額
日本で納める相続税の額は、贈与税額控除、配偶者控除等の控除した後の日本における相続税額です。外国にある財産の額は、外国にある財産の合計額から、その財産に係る債務を控除した額になります。
財産総額は、相続により取得した財産のうち、課税価格計算に基礎算入された金額を指します。
外国税額控除の金額を計算する際は、遺産分割協議で確定した各々の納税額を使用します。
外国税額控除を使えるケース
外国税額控除を活用できる人は、次の要件に当てはまる人です。
・外国にある遺産を相続した人
・外国にある遺産について、外国で「相続税に相当する税」が課税された人
相続税の制度は海外によって様々です。海外では相続税を廃止する国、そもそも存在しない国もあります。
カナダとオーストラリアは1970年代に相続税の制度を廃止しました。ニュージーランドも1992年に、スウェーデンも2004年に相続税の制度を廃止しました。マレーシア、シンガポール、中国にも相続税はありません。アメリカも数億円もの資産がないと、相続税がかかりません。これらの国に財産を持っていた場合は、二重課税が発生していないこととなりますので、相続税の外国税額控除は適用できません。
また、日本の財産のみを相続して、外国にある財産を相続しなかった人も、外国税額控除の適用対象外となります。
ちなみに日本の最高税率は55%で諸外国と比べても高くなっています。フランスは40%、米国は40%、英国は40%、ドイツは30%が最高税率に設定されています。
具体的な計算例を見ていきましょう。
・被相続人の財産が日本と海外で一億円ずつあるケース
計算を分かりやすくするために、相続人は被相続人の配偶者1名としましょう。日本で納める相続税が5,000万円、外国で納める相続税が4,000万円とします。外国税額控除の適用をしなければ、この配偶者は海外分の相続税を4,000万円分も余計に納めることになります。具体的な控除額可能な額を計算してみましょう。
日本で納める相続税の額 × 外国にある財産の額 ÷ 財産総額
に当てはめると、
5,000万円 × 1億円 ÷ 2億円=2,500万円
が控除の上限額になります。そのため、
4,000万円(海外で納める相続税の額)―2500万円(外国税額控除の上限額)=1,500万円
が控除の対象にならない相続税額になります。
最終的に、相続税の総額は
5000万円 +1,500万円 = 6,500万円
とまります。
このように、外国税額控除は全てが控除できるわけではありません。控除を適用しても、控除額が外国で支払った相続税に相当する税の満額に不足する可能性もあります。日本の最高税率55%が諸外国と比べても高いことを考えると、全てを控除できるケースは多いとは言えなさそうです。このケースでは、1,500万円の税金を日本で納める税金とは別に納めないといけません。
また、海外で納めた相続税額は日本円に換算する必要があります。その際の為替は、該当する外国の法令による納付すべき日の電信売相場(TTS)を使います。電信売相場(TTS)は、(Telegraphic Transfer Selling Rate)の略称で、外国との電信為替送金の際に銀行が提示する為替です。
相続税の外国税額控除の適用を行う際には、相続税申告書第8表を記載して提出します。書式を見れば、記載方法については、あまり迷うところはないでしょう。
添付書類として、海外で課せられた相続税に相当する税の支払いを証明する書類が必要です。詳細は国税庁のホームページを確認しましょう。
外国税額控除以外の控除も利用しよう
相続税の控除は、漏れがないように確認すべきです。外国税額控除以外の控除もしっかり活用しましょう。相続税を大きく節税できる可能性もあるため、控除できるものを包括的に把握していないのは、機会損失ともいえます。
具体的な控除の内容についてみていきましょう。
・基礎控除
基礎控除は全ての相続人が受けることができる控除です。この基礎控除を超えた部分の相続財産に対して相続税はかかってきます。逆に言えば、基礎控除を超えない範囲の相続であれば、相続税はかかりませんし、申告手続きを行う必要もありません。
基礎控除額の計算式: 3,000万円+(600万円×相続人の人数)
具体的な基礎控除は上記の式で算出されます。相続人の人数は、相続を拒否した人も含めた法律上の相続人の数を指します。
相続人が2人の場合の基礎控除は、
3,000万円+600万円×2=4,200万円
となります。
・贈与税額控除
過去3年以内に被相続人から贈与によって贈与税を払った相続人は贈与税額控除の対象となります。具体的には、相続人が過去3年以内に支払った贈与税の金額がそのまま控除額になります。
被相続人による過去3年以内の贈与は相続税の対象になります。一方、過去の贈与について既に贈与税を支払っていた場合は、同じ財産について2重で課税していることになるので、その分は控除ができます。
・配偶者の税額軽減
配偶者は税額が軽減されます。1億6千万円か、配偶者の法定相続分の財産額のどちらか、大きい金額を取得した際にかかる相続税額が控除の対象になります。
つまり、配偶者は1億6千万円までの相続財産であれば、相続税がかからなくなっています。
・未成年者の税額控除
相続を開始した時点で、20歳未満の未成年は税額控除の対象になります。具体的な控除金額は、以下の計算式で算出されます。
10万円 × その未成年者が満20歳になるまでの年数
その未成年者が満20歳になるまでの年数の1年未満の期間は切り上げます。なお、過去にも相続で未成年者控除の適用を受けている場合は、時期によって、控除額が制限されることがあります。
・障害者の税額控除
相続を開始した時点で相続人の中に85歳未満の障害者がいる場合は、税額控除の対象となります。控除できる金額は、一般障害者の場合、特別障害者の場合で異なります。
一般障害者の場合:10万円 × 対象となる障害者が満85歳になるまでの年数
特別障害者の場合:20万円 × 対象となる障害者が満85歳になるまでの年数
上記が控除額になります。なお、対象となる障害者が満85歳になるまでの年数の1年未満の期間は切り上げて資産します。また、過去にも相続で障害者の税額控除の適用を受けている場合は、時期によって、控除額が制限されることがあります。
・相次相続控除
10年以内に相続が複数発生した場合、先の相続でかかった相続税の一部を、2回目の相続の相続税から控除できます。計算式は若干複雑です。
A×(C/(B-A))×(D/C)×((10-E)/10)
A:被相続人が前の相続で課せられた相続税額
B:被相続人が前の相続で取得した相続財産額
C:今回の相続財産額総額
D:今回の相続人の相続財産額
E:前の相続から今回の相続までの年数(1年未満の期間は切り捨て)
・生命保険・死亡退職金
生命保険金、死亡退職金は、一部が非課税になります。具体的には、
相続人1人当たり500万円
が非課税の対象となります。相続人でない方がお金を受け取った場合はこの非課税枠の控除は適用できません。生命保険金と死亡退職金はそれぞれで控除枠が存在します。双方を受け取った場合は、それぞれを併用して適用することができます。
・借入金
被相続人が借金を持っていた場合は、その借入額を相続財産から差し引くことができます。ただし、住宅ローンの取扱いには注意が必要です。多くの場合、住宅ローンには団体信用保険が掛けられており、死亡と同時にローンの残金がその保険で賄われる仕組みとなっています。賄われた住宅ローンの残債は相続財産から控除できません。
・被相続人が本来自分で払うべきだった支払い
借入金と同じ様に、被相続人のその他の債務も、相続財産から差し引くことができます。被相続人が生前に購入したもの、受けていたサービスが該当します。典型的なものとしては、クレジットカードで支払っていたもの、水道光熱費、固定資産税、住民税などが挙げられます。
・葬儀にまつわる費用
葬儀の費用も含む葬儀に纏わる費用は相続税の計算上で控除できるものとなっています。基本的に通夜・葬儀にかかる一般的な費用は全て控除することができます。
対象となる費用の例
葬儀の費用、火葬や埋葬・納骨の費用、お寺に支払う謝礼、通夜や葬儀当日の食事代、香典返しの費用、墓石や墓地の費用、初七日や49日法事にかかった費用、位牌等の仏具の購入費など
相続税の計算が複雑なときは税理士へ
まずは自分で、相続税の計算をしてみようと考える方も多いと思います。税理士報酬は安い金額ではありませんが、外国税額控除を含む、相続税の計算は複雑になることが多いです。
時間と手間をかけて申告書を作成したものの、税務調査で申告の誤りが見つかりペナルティを払うことになる場合もあります。慣れない作業を無理して行うことで、本来納める税額よりも多くの税金を支払ってしまっては本末転倒です。
税理士に相談を行うことで将来に発生する税金を減らすアドバイスももらえます。
税理士報酬を支払った方が、最終的な収支が改善する可能性もあります。
相続税、相続のお手続き等での悩みがある方は、税理士に相談してみてはいかがでしょうか?
まとめ
相続税の導入の背景は各国によって異なります。日本における相続税は1905年に導入されました。1905年、前年に始まった日露戦争の資金調達を目的に導入されたのが始まりです。日露戦争後もロシアから賠償金が支払われなかったことから、政府は相続税を存続させました。
一方、海外では相続税を廃止する国もあれば、一度も導入したことがない国もあります。故人が海外に資産を持っている方は、まず、諸外国の相続税の制度を確認しましょう。
もし相続税が存在する国であれば、外国税額控除をしっかりと活用するようにしましょう。何も手続きを踏まなければ、日本の相続税と海外の相続税が二重で課せられてしまいます。実際には、二重の税金を支払う必要はありません。詳細な手続きを確認したい場合には専門家に相談しましょう。