自宅の土地や建物など、相続の代表格ともいえる不動産。
現金・預貯金などの流動資産と違って、日常的に不動産の売買や権利のやりとりをする機会はないため、いざ相続となってから何をどうすればいいのか調べ始める方も多いと思います。
タイミングによっては、相続税申告と確定申告を同時に進めることもありえます。
「相続だけでも大変なのに、確定申告も?言葉は聞いたことがあるけど、よくわからないし実際にやったことはないし…」と不安な方もいるでしょう。
今回は、不動産を相続した場合、どのようなケースで確定申告が必要になるのか、また確定申告の手続きは具体的にどう進めたらいいのか、詳しく解説いたします。
確定申告とは?
確定申告とは、1年間(1月1日から12月31日まで)の所得と、それに対する所得税および復興特別所得税の金額を計算して、税務署へ確定申告書を提出する手続きのことです。
また、計算した所得税額よりも源泉徴収や予定納税で納めた税額のほうが多かった場合は、還付を受けることができます。
多くのサラリーマンは毎月の給与やボーナスから源泉徴収され、年末調整で会社側に精算してもらいますが、その精算を自分自身でやるようなイメージです。
サラリーマンでも給与以外の所得がある方や、2ヶ所以上で働いている方は、会社(1ヶ所)で年末調整を受けた後に確定申告、という流れになります。
不動産の相続で確定申告は必要?
不動産を相続したからといって、必ず確定申告しなければならない、というわけではありません。
不動産も財産のひとつとして相続税もしくは贈与税の課税対象となるので、そこへ所得税をかけると二重課税になってしまいます。
ただし、相続した後の不動産の取り扱いによっては、確定申告が必要となる可能性があります。
確定申告が必要となるケース
例えば被相続人の自宅を相続し、そこに住み続けるのであれば、所得税は発生しません(相続税や固定資産税は発生する可能性があります)。
所得税がかかる=確定申告が必要となるのは、相続した不動産によってなんらかの利益が発生している場合です。
具体的なケースを見てみましょう。
家賃収入が発生している場合
土地や建物などを相続し、その不動産を貸し付けて収入を得ている場合、不動産所得として確定申告する必要があります。
計算方法は以下のようになります。
総収入金額-必要経費=不動産所得の金額
○総収入金額
・名義書換料、承諾料、更新料、頭金など
・敷金や保証金など、返還しないもの
・共益費(電気代、水道代、掃除代など)
○必要経費
・固定資産税
・損害保険料
・減価償却費
・修繕費
遺産分割協議中に発生した不動産所得は、相続人全員に共有のものとなります。
それぞれ相続する割合が確定するまでは法定相続分に応じた申告をしなければならないので、注意しましょう。
また、不動産から収入を得ていた被相続人が1年の途中で亡くなった場合は、1月1日から亡くなった日までの準確定申告も必要になります。
準確定申告については後ほど詳しく説明します。
土地・建物などを相続し、売却した場合
相続した土地や建物などの不動産を売却して利益を得た場合は、譲渡所得の課税対象となります。
譲渡所得は、不動産を売却した金額から、取得費や譲渡費用を差し引いて計算します。
取得費は、不動産を購入したときの代金や手数料だけでなく、改良費や設備費なども合わせた金額です。
建物の場合は減価償却費も差し引きます。
(ただし、昔から持っていた土地などで取得費がわからないときは、不動産を売却した金額の5%相当額として計算します。)
譲渡費用とは、不動産を売るためにかかった費用のことで、仲介手数料、印紙代、建物の取り壊し費用などが含まれます。
譲渡所得の重要なポイントとしては、不動産の所有期間が5年以下(短期譲渡所得)か5年を超える(長期譲渡所得)かによって、税金の計算が異なる点です。
税額は短期譲渡所得が30%+住民税9%、長期譲渡所得が15%+住民税5%と、大きく差があります。
通常は不動産を購入した日が取得日となりますが、相続によって取得したものは、被相続人が不動産を取得した日をそのまま引き継ぐことになり、相続した日にはなりません。
不動産の譲渡によって損失が出てしまった場合は、他の不動産の譲渡所得から控除することができますが、事業所得や給与所得など、別の所得とは損益通算できません。
不動産を現金化してから相続した場合
土地など物理的に分けにくい不動産は、売却・現金化してから相続するケースもあるでしょう。
換価分割といいますが、この方法は現物分割や代償分割と比べてわかりやすく、より公平に不動産を分割して相続することができます。
この場合も、各相続人が不動産から得た利益は譲渡所得の課税対象となります。
ただし、不動産は被相続人名義のままでは売却できないので、まずは法務局で所有者の名義変更をする、相続の登記を行う必要があります。
名義変更の際は、それぞれが不動産を相続する割合に従って登記する方法と、相続人のうち誰か1人を代表者として便宜的に登記する方法があります。
場合によっては相続税を払った後にさらに所得税を払うことになりますが、相続から3年以内の譲渡であれば、相続税を不動産の取得費として加算できる特例もあります。
この特例を受けるためには、確定申告が必要です。
相続財産を寄付した場合は、確定申告で節税になる
国や地方公共団体、特定公益増進法人などに対して相続した財産を寄付する場合には、確定申告で寄附金控除と呼ばれる所得控除を受けることができます。
また、政治活動に関する寄付をしたとき、認定NPO法人に寄付をしたとき、公益社団法人などに対して寄付をしたとき、それぞれに税額控除の制度があります。
一定の要件を満たすものであれば、寄附金控除と税額控除のうち有利なほうを選ぶことができます。
通常、個人が法人へ不動産を寄付したときは、譲渡所得の課税対象となります。
不動産の取得時と不動産を寄付したときの時価で計算し、時価が上回る場合は利益が出たとみなされ、所得税を払わなくてはなりません。
しかし、国や公共団体への寄付なら無条件で、公益法人への寄付は一定の条件を満たせば、課税対象にはなりません。
なお、相続した財産を相続税の申告書の提出期限までに寄付した場合は、相続税の対象にならないという特例もあります。
提出期限前であれば、検討してみてはいかがでしょうか。
相続に伴う確定申告について
ここまでご紹介したケースのように、相続した不動産から家賃収入や売却(譲渡)による利益が発生した場合、確定申告が必要となります。
相続税も払ったのに所得税も払うとなると腑に落ちないかもしれませんが、相続税は財産の相続そのものにかかる税金なので、両者は異なるものとして考えましょう。
確定申告するのはあくまでも、相続によって取得した不動産など自分自身の財産から発生する利益ということですね。
それでは実際にいつ、どのような手続きをすればいいのか、申告の方法や流れについて具体的に確認していきましょう。
確定申告の期限
確定申告書の受付期間は、毎年2月16日から3月15日までの間です。
※土・日・祝日であれば、その翌日となります。
例えば2024年分(2024年1月1日から12月31日まで)の場合、2025年2月17日(月)から3月16日(月)までの間に申告と納税を行います。
期限をすぎてしまうと、無申告加算税や延滞税が発生してしまうこともあります。
余裕をもって準備を進め、必ず期限内に提出しましょう。
なお、還付申告の期間は確定申告と違い、提出する年分の翌年1月1日から5年間となっています。
還付に関しては通知がなく、誰かに教えてもらえるものではないので、納めすぎになっている方は自分で確実に手続きしましょう。
青色申告?白色申告?
事業所得、不動産所得、山林所得のある人は、青色申告をすることで様々な特典を受けられます。
青色申告をするためには、業務開始から2ヶ月以内に、納税地の所轄税務署長に青色申告承認申請書を提出する必要があります。
被相続人から業務を承継した場合、提出期限は承継した日から2ヶ月以内になります。
※被相続人が青色申告者だった場合は、亡くなった日から4ヶ月以内となります。
青色申告の主な特典として、青色申告特別控除(最高65万円)、青色事業専従者給与、貸倒引当金、赤字の繰り越しと繰り戻しなどがあります。
記帳や帳簿の保存といった手間はかかりますが、現在は白色申告でも同様の義務があるため、せっかくなら青色申告を選んだほうがお得です。
用意すべき書類とは
申告のために用意すべき書類は、人によって違います。
申告書Aまたは申告書B、マイナンバーを確認できる書類、本人確認書類は必ず提出することになりますが、それ以外の書類は個人の収入や適用する控除の種類によって変わってきます。
代表的なものをいくつか挙げてみます。
○収入の種類
・給与所得
・公的年金
・事業所得
・不動産所得
・配当所得
○控除の種類
・医療費控除
・社会保険料控除
・生命保険料控除
・寄附金控除
・扶養控除
該当する所得や控除に関する証明書・明細書・通知書といった書類は、申告時に添付もしくは提示することになるので、失くさないようにしっかり保管しておきましょう。
加えて、青色申告者であれば青色申告決算書を、白色申告者であれば収支内訳書を一緒に提出します。
確定申告の流れ
必要な書類が準備できたら、確定申告書を作成します。
申告書の書式に従って、該当する証明書などから必要な数字を書き写していく作業なので、いざ書き始めてみたら意外と簡単だった、と感じるかもしれません。
書類は直接税務署へ提出するほか、郵便や信書便(消印有効)による送付も可能です。
また、現在はe-Taxでの申告が推奨されています。
国税庁ホームページの確定申告書等作成コーナーで申告書を作成し、マイナンバーカード方式かID・パスワード方式のどちらかを使えば、そのままデータを送信することができます。
さらに2019年1月から、収入が1ヶ所からの給与所得(年末調整済み)のみの場合は、スマートフォンやタブレットから確定申告できるようになりました。
納税の方法は、口座振替、e-Tax、クレジットカード、コンビニエンスストア、現金などから選ぶことができます。
還付の場合は、申告書に記入した口座へ振り込まれます。
準確定申告について
確定申告はなんとなく知っていても、準確定申告はあまり聞き慣れない、という方が多いのではないでしょうか。
基本は確定申告と同じように、1年間の所得とそれに対する所得税および復興特別所得税の金額を計算して、税務署へ提出する手続きとなります。
こちらも簡単に触れていきたいと思います。
準確定申告とは?
被相続人が1年の途中で亡くなった場合、1月1日から死亡した日までの所得・税額を計算し、相続人が申告と納税をしなくてはなりません。
確定申告との主な違いは申告の期限です。
相続の開始を知った日の翌日から4ヶ月以内に申告する必要があります。
被相続人が前年度の確定申告を提出していなかった場合も、同様の期限になります。
家族が亡くなって気落ちしているところへ、葬儀や遺産分割、相続など様々な手続きに追われて大変ですが、いつの間にか期限を過ぎていた、ということがないように気を付けたいですね。
準確定申告の方法
提出する書類や作成の仕方は確定申告とほぼ同様になりますが、いくつか相違点もあります。
まず、相続する人が2人以上いる場合、連署で申告書を提出することになります。
また、準確定申告の場合は付表(被相続人と各相続人との関係性などを記した書類)を添付する必要があります。
できあがった申告書は、被相続人の死亡当時の納税地の税務署長へ提出します。
注意点として、医療費、社会保険料、生命保険料、地震保険料などの控除は、死亡の日までに被相続人が支払った金額となります。
亡くなった後に相続人が支払った金額は含まれません。
まとめ
不動産の相続に伴う確定申告について、イメージは掴んでいただけたでしょうか。
ただでさえ大変な相続の手続きに不動産の手続き、慣れない単語ばかりで複雑に感じてしまうかもしれませんが、必要なことを確認して一つ一つクリアしていけば大丈夫です。
相続の確定申告で難しい・わかりにくい点があったときは、税務署へ相談すれば丁寧に教えてもらえます。
心配なことがあれば、電話してみるのも良いでしょう。
職員さんも落ち着いて対応できるので、相談するなら確定申告時期で混み合う前がおすすめです。
不動産の相続においての知識をつけ、納めるべき税金は納め、節税できる部分はしっかりとおさえていきたいですね。