相続が発生すると、亡くなった親から実家を譲り受けるなど、不動産の相続もしばしば発生します。
その譲り受けた不動産に実際に住む、売却して資産とする、運用するなど、不動産相続後の使い道もさまざまです。
相続後、スムーズにその不動産の使途を果たすには名義をしっかり変えておくなど、それ相応の手続きが必要となってきます。
また、相続で譲り受けた不動産にも相続税がかかってきます。
こちらについても譲り受け方により相続税が控除できる制度があるので、しっかり把握しておくことが大切です。
本稿ではそういった不動産名義と相続税に関する情報を中心にご紹介します。
相続時の不動産の名義変更について
被相続人から不動産を相続した場合、不動産の名義を変更する「相続登記」という手続きが必要です。
この手続きは義務ではありませんが、名義を変更しておいた方がメリットとなるケースが多いため、今回は相続登記(不動産の名義変更)について紹介します。
相続登記とは
相続登記とは、不動産の所有者が亡くなった場合、故人の名義になっている土地・家・マンションなど不動産の名義を変更する手続きのことです。財産を引き継ぐ相続人へ名義を変更することとなります。
これには登記申請が必要となり、登記申請を行うことによって、不動産の名義が代わり、不動産の所有者が代わります。
相続登記(不動産の名義変更)を行う人は次の3パターンに分かれます。
・相続人みんなで遺産分割の話し合いをして相続登記
・遺言の内容に従って相続登記
・法定相続分で相続登記
特に申請に期限はありませんが、そのままにしておくとさまざまなデメリットがありますので、なるべく早く手続きすることがおすすめです。
相続登記の手順
相続登記手続き(不動産・土地・家・住宅・建物の名義変更)をするには、不動産のある住所の管轄地である法務局に行って、相続登記(不動産の名義変更)を申請します。
相続登記手続きの流れは、次のようになります。
①相続の発生
不動産の持ち主が亡くなることにより発生します。
②遺言書の有無の確認
遺言書の有無によって、相続財産を取得する人や相続登記の手続き、必要書類がかなり変わってきます。
便利な方法として、公証役場で公正証書遺言検索システムを利用するとよいでしょう。自筆証書遺言の場合は、遺言書検認の手続きを行います。
③相続人の調査・確定
遺言書がない場合、亡くなった人の出生から死亡までの戸籍謄本などの書類を確認します。この書類を元に、相続関係説明図(いわゆる家系図)を作成します。
④相続財産の調査・確定
遺産が多い場合には、死亡後10ヶ月以内に相続税の申告が必要です。
逆に、相続債務が多い場合、相続発生後3ヶ月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述によって、債務を引き継ぐことを免れます。
相続税は、相続財産の合算にかかってくるので、相続財産や債務がどのくらいあるのかを早めに確定しましょう。
⑤遺産分割協議
誰がどの財産をどれだけ相続するのか、すべての相続人で協議します。
相続人に未成年者がいる場合は特別代理人を、行方不明者がいる場合は相続財産管理人をそれぞれ選任しなければいけません。
⑥遺産分割協議書の作成
書類作成の理由は以下の3つです。
・協議内容を明確にするため
・のちの相続争いをおこさないようにするため
・相続登記手続き、名義変更手続き、相続税の申告に使用するため
遺産協議がととのったら、その内容に沿って、遺産分割協議書を作成します。
相続人全員の署名・押印が必要です。
⑦相続登記(家・住宅・不動産・土地)名義変更の申請
管轄の法務局へ相続登記手続き(家・住宅・建物・不動産・土地の名義変更)の申請をします。
その際、登録免許税(登記手続きの際に国に納める税金のこと)の軽減(1申請につき最大4000円)を受けられるよう、法務省オンラインシステムを利用するとお得です。
手続きの方法
前項でご説明した手続きの手順は、個人でおこなうことも可能ですが、平日に役所に行かなければならなかったり、亡くなった被相続人が頻繁に引っ越していたりすると全国各地の役所から戸籍謄本を集めなければいけないなどの労力も発生します。
遺産分割協議書に間違いがあっても、法務局は受け付けてくれないということも発生するので、司法書士に任せるという方法も選択肢のひとつでしょう。
相続登記にかかる費用
相続登記(不動産の名義変更)には、全ての手続きを自分で行ったとしても、必ずかかってしまう費用と、司法書士に依頼した場合に必要な費用(報酬)があります。
費用の種類は下記になります。
①相続した不動産を調査するための費用
・名寄せ帳の費用/ほとんどの役所で1通300円(無料の場合もあります)
相続した不動産について、不備や間違いがないかを調査する際に取得が必要となります。
相続した不動産がある市町村役場で取得することができます。
・固定資産評価証明書の費用/不動産1件につき数百円(地域によって異なります)
これは、相続した不動産の評価額を詳しく調べる際に必要な書類です。
評価額は、相続登記申請の際の登録免許税の計算に使用します。
相続税のかかる金額にも影響します。相続した不動産がある市町村役場で取得することができます。
・登録事項証明書の費用/1通あたり600円
こちらの書類は相続した不動産に、抵当権(不動産取得の際、ローンなどを借りるときに、購入する不動産の土地と建物に金融機関が設定する権利のこと)の担保が付いていないか、他に共有者はいないかなどの権利関係を調べるために取得します。
取得先は近くの法務局になります。
②相続登記申請の際に必要な書類を集めるためにかかる費用
取得は全て市町村役場になります。
亡くなった人の書類関係
・亡くなった人の出生から死亡までのつながりの付く戸籍謄本/1通450円〜700円
・亡くなった人の住民票の除票/1通200円〜400円
相続する人の書類関係
・相続人全員の戸籍謄本/1通450円くらい
・不動産を相続される方の住民票/1通200円〜400円
・相続人全員の印鑑証明書/1通200円〜400円(司法書士の代行は不可となります)
共通してかかる費用
・取得の郵送費(往復分必要)/1件あたり500円前後
③相続登記を法務局に申請する際にかかる費用
法務局に相続登記を申請する際には「登録免許税」という税金が課税されます。
固定資産税評価証明書の中にある、固定資産評価額に0.4%をかけた額を納付しなければなりません。
④相続登記時の司法書士への報酬費用
相続登記は必ず司法書士に依頼しなければいけないわけではありません。
自分で書類を集めて行うことも可能です。
司法書士に依頼すれば、登記申請以外の手続きである、調査や戸籍取得の作業、遺産分割協議書の作成など、ほとんどの部分を代行してもらうことができます。
作業によっては難易度が高いものや、平日に行わなければならないので、仕事で難しかったり、相続した不動産の所在地が離れているなど、交通費など含む節約額と比較して検討することをおすすめします。
相続登記は必須?
相続登記(不動産の名義の変更)をするまでは、相続人全員が法定相続分に応じて不動産を共有している状態になります。
登記費用などもかかるし、手続きも面倒だ、自分が次に相続する時に相続税がかからないのであれば、相続登記(名義の変更)は別にしなくてもよいのでは?と考える人も多いのではないでしょうか。
法律上、絶対に必要ではない
相続登記(名義の変更)はしなければ罰せられるということは、今のところありません。
しかし、東日本大震災をきっかけに政府が不動産登記の義務化を検討しており、もしかしたら今後は必須になる可能性もあります。
これは津波の影響で所有者不明の土地がたくさんできてしまったことが影響しています。
デメリットが多い
上記のように、相続登記(名義の変更)義務ではないものの、相続登記(名義の変更)をしないとデメリットも生じてきます。
大きくは下記3つのデメリットがあります。
①相続登記(不動産の名義の変更)しないと売却できない
相続した不動産を売却したい場合、相続人は自らが所有者であることを証明する必要があるため、不動産登記上の名義人になっていなければ、売却することはできません。
不動産の登記は実際に即して行わなければならないため、被相続人(亡くなった人)から直接、買主へ所有権を移転することはできません。
②権利関係が複雑になる可能性がある
相続登記をするには、上記で紹介した「遺産分割協議書」が必要になります。
相続してしばらく経ってから、「売却したい」と思った時に、亡くなって相続した当時よりも相続人が増えている可能性があります。
遺産分割協議書の作成には、相続人全員の協議が必要になるため、権利関係が複雑になり、文書を作成することが困難になる可能性もあります。
自分の子や孫の代に複雑な不動産登記手続きを残さないためにも、早めに相続登記(不動産の名義の変更)をすることをを勧めます。
③不動産を差し押さえられる可能性がある
不動産は遺産分割協議が終わるまでは、相続人全員で法定相続割合に応じて不動産を共有している状態です。
もし、この相続人の中に借金がある人がいて、支払いが滞っている場合、金融機関などの債権者に不動産の相続持分を差し押さえられてしまう可能性があります。
遺産分割協議が終わっていても、相続登記(不動産の名義の変更)をしなければ、差し押さえをした債権者に自分のものだと主張することはできません。
債権者に勝手に不動産を処分されてしまう前に、思い入れのある不動産であればなおさら、早めに相続登記をしておくことが大事です。
相続税と不動産の名義変更との関係
相続税は亡くなった人の財産全体にかかる税金なので、不動産の名義の変更と共に発生する税金ではありません。
名義の変更をしなくても相続税の対象であれば相続税がかかります。
相続税とは直接の因果関係はない
上記の通り、相続税と不動産の名義の変更は直接は関係がありません。
相続税は亡くなった人の財産全てに対してかかる税金のため、自分が相続したものだけでなく、他の人が相続した財産(不動産以外のものも含む)との合算のものに相続税がかかってくることになります。
不動産の名義を変更したからといって、相続税がかかる財産が減ったり増えたりするわけではありません。
ただし贈与の場合は「贈与税」に注意
相続税の節税のために、贈与という方法を考える人もいるでしょう。
贈与とは、贈与する人が生きている時に、受贈者に財産を無償であげることです。
この贈与額が年間110万円をこえると贈与税がかかります。
不動産の持ち主が生きているうちに譲り受けてしまえば、相続税はかからなくなるのでは?と考えるかもしれませんが、そのような相続税のすり抜けを政府が防止するために贈与税があります。
この贈与税は基本的に相続税より高く設定されていることが多く、結局は贈与税として税金がかかってしまうので注意が必要です。
贈与の際に考慮すべき控除
贈与の際は、上記のように110万円をこえると贈与税がかかってきますが、これから紹介する2つの控除制度を利用すれば、実際に相続税の節税になったり、贈与する際に相続税の前払いとして、相続時に配偶者や子、孫が納める相続税を減らすことができます。
相続時精算課税
相続時精算課税とは、贈与税を減額できる制度で、相続税の節税にもつながる制度です。
この制度を利用すると2500万円までは非課税となります。(それを超えた部分については一律20%の贈与税を納めます)
そして贈与者が亡くなった時は、贈与した財産を加算して相続税を計算し、計算された相続税からすでに贈与税として支払った分については相続税の合計から差し引くことができます。
ここで注意が必要なのは、相続税としては節税できますが、支払う税金の総額が抜本的に減るというわけではないということです。
しかし、相続遺産が2500万円までの場合は、贈与税も相続税もかからないので、その場合は通常の贈与を行うより、相続時精算課税のほうが得になります。(相続税の基礎控除額は3000万+法定相続人の数600万のため)
また通常贈与の場合、贈与した人が3年以内に亡くなってしまうと、その贈与した財産は相続税の対象財産として加算され、贈与税の差し引きも行われないので、相続税として払わなければならなくなってしまい、注意が必要です。
贈与税の配偶者控除
贈与税の控除制度として配偶者控除があります。こちらも必ずしも相続税の節税につながるわけではないので気をつけなければいけません。
贈与税の配偶者控除とは、生前に配偶者に対し、
・居住用の不動産
・居住用の不動産を購入するためのお金
いずれかを贈与した場合、2000万円まで非課税となる制度です。
これに毎年の基礎控除額である110万円を加算した、2110万円までが非課税の対象となります。
婚姻期間が20年以上という条件付きですが、非課税枠を使って、相続時に安定した居住用の不動産を配偶者に残すというメリットがあります。(相続人同士で財産を分ける場合に、配偶者に居住用の不動産が残らないことも)
また、通常贈与であれば、亡くなる3年前でないと、相続時に相続税の対象となりますが、配偶者控除を受けた財産については、相続開始3年以内の財産であっても贈与のまま扱われ、再度、相続税がかかることはありません。
しかし、配偶者は相続税を支払う場合も優遇されており、最低でも1億6000万円までは相続税は非課税となります。
また不動産を同居している親族に相続する場合は8割引きで相続できるので、相続税対象の合算金額としては少なくなります。
そのため、不動産については相続税控除の範囲内に収まることが多く、生前贈与の配偶者控除を無理して使わなくてもいいので、相続税の節税に直接つながらないといえます。
まとめ
不動産を相続した場合、相続税だけの問題を考えると、財産全体にかかってくるので、名義の変更までは必要ないと考えがちです。
しかし、ここで紹介した通り、そのあとの不動産の利用目的まで考えると、相続登記(不動産の名義の変更)をしておかなければ、売却したりする場合に不都合が生じてしまうということもあります。
また、相続税の節税を考えて、「贈与」という方法もありますが、相続時精算課税や配偶者控除など、それぞれの制度を確認して使うことで、より相続税含む税金控除も期待できます。
相続する側もされる側も、気持ちよく相続をするために相続財産の名義を確認したり、名義の変更の続きと相続税への対策を一度考えてみるとよいでしょう。