相続に関する口約束は守られる?遺言書がなく口約束だけのときはどうする?

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「この財産を相続させる」と言われ、その言葉を信じていたら実際には遺言書もなく、親族が亡くなったというケースは実は珍しくありません。

どんな人でも、期待とは違った結果に納得するのは難しく、多くの場合は相続トラブルへ発展します。

そこで、この記事では、被相続人の口約束について、トラブル回避のためにどうしたら良いのか、口約束を遺産分割時にはどのように扱うべきなのかを、解説していきます。

目次

相続に関する口約束に法的効力はない

相続に関する口約束には法的効果はありません。

口約束を主張する相続人が有利になるような作り話が可能になってしまうためです。

相続分割協議のトラブルとして、裁判で争っても口約束は証拠として認めてもらえないのが現実です。

では、被相続人が生前に、相続させる約束をした、という口約束の証拠があればどうでしょうか?

被相続人が相続を相続を口頭で約束したという証拠はどのようなものがあるのかを見ていきましょう。

相続に関する口約束の内容を実現させるには

口約束の内容を証明する証拠や証人が必要

口約束で「財産を○○に相続する」という相続の約束をした証拠はどのようなものが有効か挙げていきます。

・ ボイスレコーダーの録音

・ 口約束を想像させるその後のラインやメールのやり取り(この場合は口約束を裏付ける別途証拠があった方が良い)

・ その口約束を聞いていた証人の存在

・ 被相続人が口約束をした相手に被相続人が相続させる意思があったことを知っている人物がいる

・ 被相続人が相続の口約束をして、その相続人の反応や態度について思ったこと、嬉し

かったことを第三者に書いた手紙やSNS、またはその話を聞いた第三者がいる

ポイントは、被相続人の言動を、相続人以外の人が確認できる証拠が有効です。

相続人全員の承諾を得る

一定の財産を特定の人物に相続させる事を口約束して、そのことを他の相続人になる人達に報告して承諾を得ましょう。

そうすることが、亡くなった後の相続トラブルを回避するために、最も円満な解決方法です。

事例として、子供のいない夫婦の場合を紹介しましょう。

結婚していて子供のいない夫婦の妻が事故で亡くなったとき、妻の名義の財産があったとします。

ところが、生前から妻は妻の名義の名義の財産を全て夫の名義に変更するという承諾を、全ての親族から得ていました。

妻が事故で亡くなった後、妻の弟が「名義変更前だから、兄弟にも相続の権利がある」承諾とは違う主張をしたとします。

しかし、他の親族の「事前の話し合いで夫への名義変更は承諾した」という証言、または妻が生前に相談していた弁護士にも陳述書を提出することで、兄弟の主張は却下されます。

このように、口約束だけでは相続トラブルになりやすいので、相続人全員の明確な承諾があればトラブルを発展させなくても解決できます。

また、一旦承諾しても、あとでまとまったお金が必要となる事情が生じてしまうこともあるので、口約束ではなく承諾した証拠を残しておくのが無難でしょう。

相続に関しては口約束よりも遺言書を用意してもらおう

相続に関するあらゆる約束は、必ず遺言書に記してもらうのが原則です。

特に、法定相続人に該当する人にとって、自分の法定相続分が減るような口約束が初めて出てきた場合は承諾するのは難しいでしょう。

その結果、「約束した」、「そんなはずが無い」の水掛け論となります。

そんなことにならないように、口約束をした場合は、約束をしたお互いのために、その証拠を残しておきましょう。

被相続人になる人は、必ず「遺言書」という形にして、口約束をした相手への相続分を明確にした意思表示をすることが懸命です。

そうしないと、自分の死後に、自分の思い(口約束)通りに相続が実行されません。

また、財産の相続について口約束をされた方も、「もし本気なら書面(遺言)に残して下さい」と、相手の意思確認のための証拠を要求する事をお願いしてみましょう。

口約束をした本人が、本気で約束を守りたいなら、口約束をした相手を自分の死後にトラブルの渦中の人にしてしまうようなことを望むわけがありません。

ですから、もしも「自分が死んだら○○をあげるね」と口約束をしてもらったら、それを遺言にすることをお願いするのは、家族関係を守るために当然のことと言えます。

遺言書以外の手段

特別受益

遺言に残したとしても、遺留分減殺請求等の法定相続人の権利は守られる必要がありますので、完全に思い通りに相続をさせることはできません。

そこで、贈与税がかかりますが、生前贈与という方法があります。

注意したいのは、相続が始まる3年以内の贈与は、相続時に「特別受益」として、相続分から引かれてしまう可能性があります。

しかし、相続させたい財産を相続させたい人に受け取らせることができるので、相続する人間が納得していたら、早めに生前贈与を検討しましょう。

特別受益とは、民法第903条に次のように規定されています。

民法第903条 特別受益
1.共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。2.遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。3.被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に違反しない範囲内で、その効力を有する。

特別受益とは、相続を公平にするための制度です。

生前、被相続人から、他の相続人に比べて特別多くの援助を受けていたり、極端に高額な財産を受け取っていたりした者が、被相続人が死んだ後に、改めて他の相続人と公平に財産を相続するのは不公平と言っています。

特別受益と問題になるのは、一般的に以下の3つ(民法903条1項規定)です。

・婚姻による贈与

・養子縁組のための贈与

・生計維持のための贈与

しかし、現在は時代に合わせて税法の改正が行われています。

例えば、親から新婚旅行の費用や新居の購入費や子育て費用の援助を親からもらった場合、贈与税の軽減が税法の改正で規定されています。

親から他の兄弟姉妹に比べてひとりだけ過度な援助を受けたり、借金返済のための負債を肩代わりしたり、親の財産を食いつぶしたと他の兄弟姉妹が感じるような場合、特別受益として、相続財産から差し引かれてしまうこともあります。

これを「特別受益分の相続財産の持ち戻し」といいます。

民法903条の3項によって、特別受益を受けた者が、相続財産の持ち戻しについて認めない場合は、他の相続人達は、遺留分減殺請求権の限度で、特別受益分の相続財産を請求できることが規定されています。

また、気をつけなければならないのは、特別受益には時効というものがありません。

例えば、50年以上前の赤ちゃんや幼児の時の養子の際の持参金、若い時代の結婚費用、若いときの借金の肩代わり等を特別受益だと主張されてしまうのです。

そして、60歳過ぎて親が亡くなって、相続財産分割協議の時に、他の親族から昔の特別受益のための相続財産の減額を要求されることがあります。

具体的には、このような事例が挙げられるでしょう。

・ 兄弟の中でひとりだけ結婚を3回もやって、離婚の時の慰謝料や結納金をその都度親が支払った。

・ 20代に、他の兄弟は地元の大学で家から通ったのに、ひとりだけ、留学をして東京の大学に行って下宿費用がかかった

・ ひとりだけ、お稽古事(ピアノやスケート等の英才教育等)にお金が極端にかかった

これらの出費のために、他の兄弟が金銭的に我慢を強いられたようなケースの場合、他の兄弟に、ひとりだけ得をしている、親の財産を食いつぶして恩恵を受けていると印象に残っている場合に、問題になります。

生前に贈与してしまった財産は、贈与された者の財産となります。

しかし、そのことに納得していない他の相続人のことも考えなければなりません。

特別受益分を相続財産に持ち戻し、遺留分減殺請求権の範囲で請求されることも考慮に入れて、贈与をしないと、財産を受けた者に迷惑をかけてしまうことになってしまうかもしれません。

なお、生命保険金については特別受益とはならないという判例があります。

生命保険金は、受取人が全額受け取る権利があり、他の相続人と分けるものではありません。

また、遺言書で「特別受益分の持ち戻し」を禁止することも可能です。

その場合も、遺留分減殺請求権を妨げることはできません。

死因贈与契約

死因贈与とは「〜〜をしたら、死後に○○を相続させる」という生前の約束、あるいは契約をいいます。

介護をして法要まで約束通り行ってくれたら「死んだら家をあげる」というような条件付の死因贈与契約もあります。

このような死因贈与契約についても、口約束では、死因贈与契約をしたことを証明することはできません。

死因贈与契約の場合、死因贈与契約をした証拠の書類を公正証書等の、何らかの書面(契約書)を残しておく必要があります。

遺言書を残して財産を相続させるのは、一方的な意思表示です。

もしかしたら、指定した相続人が相続を放棄してしまうかもしれません。

そこで相続人の意思確認もして、契約書を結ぶことを「死因贈与契約」といいます。

契約書を交わすのですから、財産を譲るいずれ被相続人になる者と財産をもらう者のお互いの合意が必要です。

しかし、死因贈与契約に関しては、場合によっては有効であったり無効になったりするのでご注意ください。

例えば、死因贈与契約は遺贈分の遺留分減殺請求によって、その贈与分が減るという判例があります。

他にも、公正証書遺言の場合で、こんな判例があります。

公正証書遺言の証人が、図らずも相続実行時に代襲相続人となってしまった場合、公正証書遺言は無効になってしまいます。

しかし、代襲相続人は証人ですから、自分の親が遺贈される事を証人として納得しています。

それを合意とみなして、「無効な公正証書遺言が死因贈与契約書の役割を果たす」という弁護士の言い分が認められた判決が出た判例が存在します。

死因贈与契約は民法に明確な規定がないため、他の親族の法定相続の権利や相続状況に応じて、弁護士と相談して万が一を想定する必要があると言えるでしょう。

まとめ

当人同士が生きていても「口約束は、水掛け論になってしまう可能性が大きい」といわれています。

本気で口約束の相続の取り分を決めたい場合は、遺言書を作成したり、死因贈与契約書を作成したり、口約束したことを、相続人全員に承諾してもらうなど、自分が死んだ後にトラブルに巻き込まれないように、対策をしておく必要があるのです。

相続の約束をしてもらった人からでも、「もしも本気なら書面にして欲しい」と、お願いする事をお勧めします。

その方法は、メリットデメリットを考えて、専門家と一緒に遺言書・特別受益覚悟の生前贈与・死因贈与契約書等の作成を検討することをお勧めします。

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