「エンディングノート」といえば、終活の一環だと思う方が多いかもしれませんが、最近では、30代や40代で、自分史のような形のエンディングノートを記す人も増え始めています。
若いうちに、もしも不慮の事故や病気で亡くなってしまったとき、あなた自身も伝えられなかった想いや、やり残したことも多く悔いが残るかと思いますが、遺された家族も心に大きな穴が空いてしまいます。
そんな時に、エンディングノートがあったとしたら、遺された人達は、そのノートを支えに生きていくことができるでしょう。
亡くなった人も、いつも感じていた想いや感謝の気持ちを家族や大切な人々に伝えることができるので、後悔も少し少なくなるかもしれません。
また、もしもの時のためだけではなく、自分の人生を振り返り、見つめ直す思い出ノートにもなります。
しかし、エンディングノートについて詳しく知っている人は多くありません。
そこで、この記事では、エンディングノートについて興味がある方へ、エンディングノートの法的効力や、遺言書との違いについて解説していきます。
相続のために書くエンディングノートとは
エンディングノートには決まりがない
民法には、「エンディングノート」に関する条文がないため、法的に決められているルールはありません。
そのため、エンディングノートの形式・内容は、すべて自分の作りたいように、自由に作ることができます。
日記のようなものでも、自分史のようなものでも、やり残したことを書き出して実行していく「死ぬまでにやりたいこと」の記録でも、葬儀や埋葬の仕方、相続内容について書き記すことも可能です。
自分の身に何かがあったとき、あなたが一番気になることは何でしょう?
自分の葬儀や納骨の希望、手続き事項、個人情報やPC・スマホ情報の削除、持ち物の処分等々、気になることはたくさんあるかと思います。
上記のような、現実的な事実が書いてあるエンディングノートでも、もちろん遺族は助かります。
ただ、生きているうちには面と向かっては伝えたことがない、感謝の気持ちや、大切な思い出や宝物への気持ちなどを書き記すと、遺された人々の心の支えになることもあるでしょう。
自分の葬儀や相続、遺品の整理、遺影などについて、さまざまな希望があるかもしれませんが、あなたのエンディングノートを読んでくれる、愛する人々のことを思いながら、思いやりや気遣いを持って作成することをおすすめします。
エンディングノートを遺された大切な人のための相続に役立てたい場合は?
エンディングノートには、あなたの死後の相続についても、自由に書き残すことができます。
しかし、エンディングノートでは、どの財産を誰にどんな割合で相続させたいのかという意向が、読んだ人に伝わるだけで、それを守らせる法的な効力はありません。
つまり、自分の意向通りに相続を実行してもらえるかどうかは、読んだ人の考え次第になるということです。
普段はとても仲が良い人間関係でも、相続時には損得感情が大きく揺れ動くため、突然トラブルが起きてしまうことも多々あります。
エンディングノートに相続についての想いをたくさん書くのであれば、併せて遺言書を作成することをお勧めします。
エンディングノートに希望を含めた想いを書いて、同じ内容で法的に有効な遺言書の形態で別途遺しておくのです。
遺言書には、個人の想い等はたくさん書くことができないので、エンディングノートに、遺言内容に関しての気持ち、相続内容の理由などを詳しく書いておくと、遺された人への想いや願いが伝わりやすいでしょう。
感情の表現がなく、相続内容に伴った気持ちが何もわからない場合は、相続財産の金額と、あなたの愛情を比例して想像してしまうこともあるでしょう。
このような事態になると「本当に愛されていたのは自分だ」「あの人は自分の方が愛しいと言っていた」などと、もう本人に確認することのできない想像での争いが起きてしまい、大変な遺産相続争いとなってしまうこともあります。
そんな悲しい争いは、あなたにとっても、遺された家族や大切な人々にとっても望ましいことではありません。
エンディングノートに書く内容・書き方
エンディングノートの内容
エンディングノートを作成しようと思い立っても、何を書いたら良いのかわからない人も多いでしょう。
あくまでエンディングノートは、自由に作成できるものですから、書き残す内容もあなたの自由です。
しかし、あなたが亡き後、家族や大切な人に読んでもらう事を念頭において書かなければなりません。
そのために、誰が読んでも分かるように、丁寧な文字でわかりやすく具体的に書くことが一番重要です。
字に自信の無い人は、ノートや便箋に直筆で書き綴るのではなく、PCやスマホを利用して書くこともできます。
自分しかわからないような文字や内容で、暗号のような謎解きエンディングノートとなってしまうようでは、エンディングノートを残す意味がありません。
エンディングノートの書き方
エンディングノートに記載する一般的な内容を紹介していきます。
- 自分自身について
本籍・実家の住所・現住所・生年月日・血液型・持病等
- 趣味や趣向、特技、宝物等
- 個人情報について
スマホやインターネット、光熱費、クレジットカード、その他あなたが契約していて、死後に契約解除のために連絡しなければいけない会社、削除して欲しい情報等
- あなたの死後に連絡して欲しい人の住所や連絡先
- ペットを飼っている人の場合、ペットの年齢や誕生日、名前、ペットの種類、育て方や餌について、かかりつけの動物病院の連絡先
- あなたの医療関係情報
アレルギー、持病、常用薬、サプリメント、延命治療の希望の有無、臓器提供についての希望の有無
- 葬儀について
葬儀の規模や葬儀の種類や仕方、宗教、遺影の写真に関する希望や、納骨、火葬や散骨についての希望や、お墓、納骨堂に関する希望
- 相続財産について
全財産の財産目録のようなものを作成しておく
- 加入している保険について
- 法的効力の無い遺言書のようなもの
財産の分け方だけでなく、その理由や遺された遺族のへの想いなど
- 法的効力のある遺言書を作成した場合は、その遺言書の種類や保管場所や遺言執行人等の情報
- 家族や大切な人へ普段は言えない感謝の気持ちや思い出、形見分けとして遺したい物と相手
- その他、思い出や、夢、希望、宝物
以上のような内容を、日記のように書き残しても良いですし、思い出深い写真を貼ったり、イラスト入の華やかなノートにしても良いと思います。
あなたらしい、あなたの思いがたくさん詰まったエンディングノートを作成してみてください。
エンディングノートに書き残した希望や願いは、あなたを大切に思ってくれる人は、あなたの願いを叶えようと努力してくれる可能性も高いでしょう。
もしも、あなたの死後の希望や願いを託す場合は、それらを実現するには、どうしたら良いのか、どのくらい費用がかかるのか、といったことも前もって調べておくとよいです。
このように、遺された人になるべく迷惑がかからないように、心遣いも忘れないようにする必要があります。
例えば、「散骨してもらいたいので、お墓はいらない」と書いたとして、その手続きや、費用、戒名が無い場合の仏壇の過去帳についてどうなるのか等について、一切気にせずに、丸投げをするような形にしてしまうと、遺された人に迷惑がかかります。
心のこもった葬儀を行いたい家族の思いもあるでしょうし、あなたのことを思って仏壇に向かって毎日拝みたい人もいるでしょう。
そういった遺された人達の気持ちも真剣に考えた上で、それでも叶えたい願いを託すようにしましょう。
そして少なくとも願いを託すときは、その方法を調べ、申し込みや費用に関しては既に手続き済みといった方法で、自分が亡くなった後にしかできないことだけをお願いしましょう。エンディングノートの選び方についてはこちらの記事が参考になります。
エンディングノートに法的効力はあるのか?
基本的に、「エンディングノート」には法的効力がありません。
法的効力が無いというよりは、民法にエンディングノートについて記された条文が無いと言った方が正しいでしょう。
民法が作られた時代にエンディングノートというものは無かったので、いくら時代に即して法改正が徐々になされているといっても、納会制の滅多にない民法に、最近生まれたエンディングノートについて書かれた条文が無いのは仕方の無いことだともいえるでしょう。
でも、エンディングノートを残しておけば、あなたにもしものことが起ったときに、あなたの想いをくんで、周囲の人が動いてくれる可能性が高くなります。
だから、エンディングノートは、あくまで周囲の人のあなたへの想いに託した「あなたの希望」なのです。
あなたの希望を叶えるかどうかは、周囲の人次第というわけです。
エンディングノートと遺言書の違い
遺言書の効力
遺言書については、民法に詳しく定められていて、費用のかからない自筆証書遺言から、公証人の手を借りた、費用のかかる秘密証書遺言や公正証書遺言、その他希なケースの危急時遺言や隔絶地遺言もあります。
また、遺言書で損をした法定相続人の取り分については、遺留分減殺請求権といって、法定相続分の半分を請求する権利も守られています。
そういった権利の行使がなされたときのことも考えて、遺言書は作成されなければなりません。
また、遺言書は、民法でさまざまなルールが定められていますので、そのルールに従わないと、法的効力を発揮しません。
また、遺言書は手続きが面倒です。
例えば、もしも、あなたの周囲の人々が、あなたの想いを大切にしてくれたとしても、遺言書はそれが法的に有効なものかどうかの検認作業を家庭裁判所でしてもらう必要があり、それを通過しても、法定相続人が全員揃った場所で、封を開けて、皆で一緒に遺言書を見るという、時間と手間がかかります。
公正証書遺言はこの検認作業が省かれるとしても、法定相続人全員が揃っていないと、開封手続きができません。
エンディングノートの効力
一方、エンディングノートは、生前にエンディングノートを記した人の想いを自由に綴ることができます。
その想いは、思い出から希望、夢、葬儀や納骨、遺影に至るまで、想いをどのように綴っても、何を書いても、それはあなたの自由です。
相続に関することについても同様です。
自由に何でも書けますが、エンディングノートを見た遺された人々が、あなたの想いを実現してくれるかどうかは、遺された人々の自由意思による物ですから、法的効力は一切ありません。
法的効力を示すには、何かしらの法律がないといけないのですが、先述したように、エンディングノートについて記された法や通達は存在しません。
あなたが、エンディングノートに何を書いても良いのと同じように、遺された人が、あなたのエンディングノート見て、あなたの想いや夢、希望を知った上で、どうしようと自由でもあります。
もしかしたら、あなたの想いを叶えようとする人と、無視しようとする人の間で、トラブルが生じるかもしれません。
そして、遺言書との最も大きな違いは、エンディングノートを見ることに対し、何の手続きも必要ないことです。
エンディングノートは、書いた人が亡くなってすぐに、エンディングノートを見つけた人が、その場で見ることができます。
遺言書とエンディングノートはその効力の原動力が違う
遺言書とエンディングノートの一番大きな違いは、作成者の想いが何によって守られているかという点にあるでしょう。
遺言書は、法で守られた遺言作成者の想いといえるでしょう。
一方、エンディングノートは、周囲の人々の愛情・厚意にのみ支えられた作成者の想いだといえます。
遺言書を上手く活用しよう!
遺言書を書くメリット
エンディングノートは想いを託すだけで、法的効力は無いのです。
だから、法的効力のある遺言書を作成しておくことで、あなたの相続に関わる願いは、法定相続人の遺留分減殺請求権を侵害しない範囲で確実に実行されます。
また、遺留分減殺請求権は、法定相続人であなたの作成した遺言書に不服申し立てをした人のみに適用されることなので、あなたの想いに従う気持ちになった法定相続人は、たとえ相続が遺言書によって不利になったとしても従ってくれるでしょう。
遺言書の書き方
自筆証書遺言がお勧めです。
書き写すことが大変な、財産目録等は、添付書類として、パソコンやワープロで作成することも、コピーや写真やスキャナーでパソコンに取り込むことも可能となりました。
ただし、本人が作成したものである証拠に、あるいは偽造できないように、添付書類には1枚ずつ署名押印が必要です。
法務局が遺言書を画像で読み込んで、画像データとして全国の法務局で画像データを共有するので、その作業の一環で、遺言書が法的に有効なものであるかどうかの確認もしてくれ、法務局保管制度を利用した遺言書は、家庭裁判所の検認作業も省略できます。
このように、自筆証書遺言も法的友好度が高くなってきましたので、これから一層遺言書が身近なものとなるでしょう。
自筆証書遺言作成に当たっての作成方法や注意点を解説します。
- 「遺言書」と冒頭に表題のように書く
- 添付書類を覗き、全文消えない筆記用具で自筆で全て書く(代筆やパソコンやワープロ印字は無効)
- 相続内容は具体的に誰にでもわかるように、誤解・勘違いが無いよう曖昧な表現を使わずに、正式名称にて書く
- 相続に関する事、財産の処分に関する事、身分に関する事、後見人や補佐人や遺言執行人の指名等
- 遺言執行人を決めておくのがお勧め
- 加筆修正は民法のルールに従って書く(加筆修正した部分に押印した印鑑で訂正印を押し付記に書き記す。ただし一つでも書き忘れがあると遺言書が無効になるので、間違ったら全文書き直す方がお勧め)
- 日付(西暦・元号で年月日必須)と署名(戸籍と同じ姓名)押印(認印や実印可、シャチハタは無効)を書く
- 封印する
- 封筒にも表に「遺言書」裏に「年月日と署名」、遺言書内の押印と同じ印鑑で封印する
まとめ
いかがでしたか?
エンディングノートによって遺言を残すことはできますが、法的効力がありません。
しかし、いきなり遺言書を突き付けられるよりは、エンディングノートに遺言内容に関して、遺された人々に対して気持ちや想いを十二分に記しておいた上で遺言書を見た場合、遺言書の内容が優しく感じられるかもしれません。
遺言書には、最後の付記に気持ちや願いを記すことも可能ですが、遺言内容を明確にするために、あまり十分には書けないので、エンディングノートで、そこを補うことができるというわけです。
その気持ちの部分をエンディングノートにはたくさん書き残すことができます。
エンディングノートには法的効力はありませんが、あなたの死後にあなたの気持ちや願いをあなたの大切な人に、確実なバトンとして手渡すことのでき、あなたの存在のかわりともなれる、遺された人の偉大な宝物となることができます。
遺言書には託せない、あなたの気持ち、魂の代わりともなるのが、エンディングノートなのです。